2令和7年9月9日 現代社会は、私たちの「こころ」にさまざまな負担をかけています。情報過多、複雑な人間関係、経済的な不安、将来への不確実性、そして予測不能な災害やパンデミック。近年では、新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックが生活様式を一変させ、先の見えない不安や孤立感をもたらしました。また、頻発する自然災害は、身体的被害だけでなく、大切な人や日常を失うことによる深い悲しみやこころの傷を残します。身体の病気やけがには救急車を呼ぶなどの対応が知られていますが、「こころの救急」となると、その重要性や具体的な対応策は、まだ十分に理解されているとは言えません。 「こころの救急」とは、精神的な危機的状況に直面した際に、迅速かつ適切に対応し、その人の生命や安全を守り、悪化を防ぎ、回復への道筋をつけるための介入を指します。身体の救急と同様に、こころの危機もまた、早期発見と早期介入がその後の経過を大きく左右します。しかし、精神的な問題は目に見えにくく、本人も周囲も気づきにくい場合が多く、また偏見から助けを求めることをためらってしまうケースも少なくありません。 本冊子は、一般の方々が「こころの救急」について正しく理解し、もし自身や大切な人が精神的な危機に瀕した際に、どのように行動すれば良いのか、何をすべきでないのか、そしてどこに助けを求めれば良いのかを具体的に知るための手引きとなることを目指します。精神医学的な専門知識を平易な言葉で解説し、私たちの「こころ」を守るための知識とスキルを提供します。特定医療法人大慈会 三原病院 院長町野 彰彦はじめに
元のページ ../index.html#5