守る命つなぐ希望 災害時に役立つ基本知識と最先端技術
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4実は、災害医療も同じです。病院は患者さんを治療する場所であり、医師や看護師は患者さんに最良の医療を提供するのが仕事です。しかし、災害時には、病院のキャパシティを超える救急患者が一度に押し寄せることがあります(図1)。これは、「オーバーツーリズム」と同じ現象を引き起こし、薬や医療機器の不足、病室の不足、過労、多くの人々のイライラや争いが発生する可能性があります。災害医療では、キャパシティ超えを防ぐための工夫や訓練が必要です。このため、平常時の対応能力を超えた数の医療ニーズが発生する状況では、災害医療対応が重要になります。その解決のカギは、医療チームの「組織化」と「役割分担」です。病院の医師、看護師、薬剤師などは、それぞれ専門的な知識を持っていますが、災害時にはチームとして協力することが重要です。例えば、目の前の患者さんを治療する医療スタッフ、その情報をまとめる統括管理者、病院内の医療資源を管理する情報管理者、災害現場や他病院の情報を収集する通信管理者などに分担することが必要です。もちろん、統括管理者や情報管理者も、必要であれば患者さんの治療を行う実力はあります。しかし、自分に与えられた役割以外のことを行ってしまうと、チーム全体の活動が停滞し、結果的に被災者の救命率が低下してしまいます。つまり、災害医療では「何をやるか」よりも「何をやらないか」を明確にすることが重要です。目の前の患者さんだけでなく、目の前にいない患者さんを救うためにも、この線引きが必要なのです。

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