知っておきたい薬物の乱用・依存に関する基礎知識
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30視床からなり、「うまく」、「よく」生きるように、適応行動や創造活動を司っています。大脳辺縁系は海馬、扁桃核、視床下部などからなり、「たくましく」生きるように、本能行動や情動行動を司っています。また、脳幹−脊髄系は脳幹、脊髄からなり、「生きている姿」をささえる呼吸、睡眠、排尿、排便などの反射、調節を司っています。 さて、「摂食行動」や「性行動」などの<本能行動>は、動物にとってその自己保存や種族保存に重要です。ところが、食物を摂取している場面、性の伴侶を得て雄が雌にマウントしている場面は、スキがあって外敵に襲われる危険が強いものであり、動物は本来、このような危険には、身をさらさないのが常なのです。ところが、本能行動が発現するために、身体には次のような仕組みが備わっているのです。すなわち、例えば血糖値が低下し、木の実が落ちる秋になると、森のリスの運動量は急激に増加します。動き回っているうちに、落ちているドングリに巡り合い、摂食行動が発現します。体内の性ホルモン量が高まり、性の伴侶が目の前に現われれば、他の雄と格闘してでも手に入れて、交尾が成立するのです。自然界ではこのようにして汗水流して本能行動が完了すると、<大脳辺縁系にある報酬系>が刺激され、非常な快感を伴うのです。一度、本能行動に伴う「快感」を味わうと、次には多少の危険を冒してでも、一層容易に本能行動の衝動が引き起こされ、次々と、この回路は強化されていくのです。 このように本能行動の発現を引き出す快感をもたらす身体内の仕組みは、薬物乱用においても働くのです。汗水を流す努力もなく、覚せい剤やコカインを静脈内に注射すると、同じ報酬系によって、非常に短絡的に同様の快感がもたらされます。依存形成物質はこの報酬糸に対して、直接ないし間接的に作用するため、安直に快感をもたらすためにはまり込んでいき、薬物依存の状態が成立していくと考えればよいと思われます。3.薬物への“とらわれ”の心理的解釈(図表4) 普通の大人の人間関係は「私」と「あなた」という1対1の二者関係であり、これを合わせて「2.0の関係」としますと、その特徴は<一方が王様で、他方

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