29経験したいと思い、薬物を求める(薬物探索行動)ことになります。このように、薬物の乱用者は薬物がもたらす<正の強化効果>や<負の強化効果>を求めて、薬物の使用を繰り返すことになります。薬物依存の形成に関する基本的概念を示したのが図表3です。 薬物を反復使用していると、その効果が徐々に減弱し、初期の効果を期待するためには、1回の使用量や使用回数を増やす必要があります。この現象を<耐性>といいます。後に述べる「身体依存」には必ず耐性を伴いますが、耐性を生ずる薬物がすべて依存を形成するとは限りません。依存の第一段階は<精神依存>とよばれる内側のサイクルから始まります。依存は悪循環で、連用するにつれて薬物に対する欲求(渇望感)は激しくなり、<強迫的な使用>へと拍車がかけられていくのです。薬物の種類や条件によっては精神依存のサイクルに留まりますが、中枢神経系に対して抑制的な作用を有する薬物では、さらに<身体依存>の悪循環に入ることがあります。この場合、連用中の薬物を中断すると、連用していた薬物に特有な<禁断症状>とよばれる身体的・精神的な異常症状が出現します。この禁断症状は連用していた薬物、あるいはそれと類似の作用を有する薬物を使用するとピタリとおさまるので、薬物依存者は禁断症状がもたらす苦痛を回避しようとして、更に薬物の使用を続けるため、自力で薬物の使用を断ち切り、薬物依存から脱却することはなかなか困難となります。禁断症状と同様の症状は薬物を完全に禁断しなくても、薬物の血中濃度が急速に減少した時にもみられるので、<離脱症状>あるいは<退薬症状>とも呼ばれます。 薬物依存とは、このように<薬物の使用とその効果追求に対して過剰に動機づけられた状態>といえます。薬物依存の状態においては、自らの健康はもとより、家庭生活、職業生活などは放置され、薬物を使用することだけが≪生活の中心事≫となることも、しばしば見られるのです。2.薬物依存の生物学的理解 中枢神経系は機能的に上位の方から、<大脳皮質系>、<大脳辺縁系>、<脳幹-脊髄系>の3層に区分されます。大脳皮質系は新皮質、大脳基底核、
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