知っておきたい薬物の乱用・依存に関する基礎知識
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   室内を見ると、ちょうど雨戸の戸袋の辺りに、つるはしが突き立っております(図表26)。「やられる前にやってしまえ」というわけです。うまい具合に警察官に早めに保護されたから良かったのですが、このような包囲襲来状況に陥っているときに、偶然に新聞の集金人でもきたら、その人間までもが自分を殺しに来た暴力団員と思い込んで、傷つけていたかも知れないのです。   覚せい剤精神病の幻覚・妄想などの病的症状は、普通、最初発現するまでには、覚せい剤を最低でも2、3ヵ月間、周期的に打ち続けないと出ない3624覚せい剤精神病は再燃の度に発現しやすくなり、治まりにくくなる図表27.覚せい剤精神病の発病と再燃の経過の模式図ちに行くぞ。隠れろ」という互いに連絡・相談しあう声がありありと聴こえるので、軒先にまで相手が隠れていると思い込んで、「やられる前にやってやる」と、軒先を鉄パイプでつついて穴を開けています。ちょうどその当時、雨戸の戸袋の中にスズメが巣をつくってチュンチュン騒々しかったのですが、そのスズメのチュンチュンいう鳴き声からも、自分を殺しに来ている連中の話し合いの声を幻聴として聴き取っていたのです。4)覚せい剤精神病の発病と再燃の経過の模式図(図表27)   図表27は覚せい剤による幻覚・妄想などの病的症状の発現と再燃の様子を表した模式図です。覚せい剤精神病は発病後、早期に治療すれば比較的容易に治るのですが、すぐ治療に結びつかないで長期間放置されてしまうと、幻覚などが慢性化・固定化してしまい、完全に治すのは非常に困難となります。また、早期に治療して治った場合でも、図表27に示すように、覚せい剤の反復使用による脳内の変化は持続しており、症状再燃の準備性は長期に保持されるものなのです。これを「逆耐性現象」といいます。

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