禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

禁煙を拒否してタバコを吸い続ける人たちの気持ち

医療法人 阪田医院
阪田 英世

 今年の9月、ネット上をウロウロしていると、改正健康増進法のために喫煙者が居場所を失い精神的苦痛を被ったとして国に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたという記事が目に飛び込んできました。
 訴訟を起こしたのは國本康浩さんという方で、「以前は飲食店で喫煙しながら食事できたが、改正健康増進法が施行されてからはほぼ不可能になった。喫煙者自体が社会から排斥されるべき存在のようなメッセージが国から発せられて、個人の尊厳を傷つけられた。」というのが訴えの大まかな内容です。提訴後の記者会見で國本さんは「喫煙を楽しみながら食事をする権利を完全にはく奪された。受動喫煙の回避は大前提だが、喫煙者専用の店舗を設けるなど共生する方法があるのではないか」と訴えたそうです。
 記事を読んで唖然としてしまいました。このご時世に何を言っているんだ、というのが最初の感想でした。どんな人なんだろうと思い、ネットでこの方のことを調べてみました。
 國本康浩さんは八王子市で「フードバンク八王子」という団体を主宰されており、Twitter 上で今回の訴訟の目的について説明されていました。國本さんの主張の要点は、現行の改正健康増進法は受動喫煙の回避という合理的な目的を持つにもかかわらず、実際に採用している手段は「その目的に対して必要以上に(合法的な)喫煙者の権利を侵害するものである」要するに「やりすぎではないか?」ということです。(下線部は國本さんの Twitter より引用)
 喫煙者からすると改正健康増進法は喫煙者の駆除・根絶を目的にしているように感じられるようです。他の喫煙者はどのように感じているのだろうと思い、愛煙家で検索してみると「愛煙家通信」というWebを見つけました。もう数年間更新されていないようですが「禁煙ファシズムにもの申す」として各界の著名人(養老孟司、北方謙三、すぎやまこういち、森永卓郎etc.)が禁煙運動に対して反論しています。どの方の文章も突っ込みどころ満載なのですが、医学的な知識がない方が読まれると「へぇ、そうなんだ」と思わず納得してしまいそうな良い文章が並んでいます。ご一読をお勧めします。
 この方々を論破しても良いのですが、論破したところで別の喫煙に都合の良い論文やデータを見つけてくるか、それ以前にこちらの論文やデータを信用できないとして討論にのってきてくれないと思います。しばしば診察室でも経験しますが人間は理屈ではなく自分の信じたいものを信じます。
 禁煙ファシズムを唱える人たちからは禁煙運動はファシズムにつながる、だからその流れに抗するために喫煙を続けるといった悲壮感のようなものが感じられます。自分たちが追い詰められていると感じているのではないでしょうか。
 最初に引用させてもらった國本さんと「愛煙家通信」の方々を一緒くたにするのは違うと思いますが、喫煙する人たちは社会から迫害されていると感じているようです。
 迫害されていると感じている人に向かって「お前は間違っている。改心しろ。」といっても効果がないことは古くは宗教弾圧、最近ではアメリカの大統領選挙やワクチン拒否など枚挙に暇がありません。信念が強くなるだけです。
 では今もなお喫煙を続ける人たちをどうすれば良いのでしょうか。タバコは禁止薬物ではありません。國本さんが言われるようにまずは「共生」できる道を探すことが正解だと思います。しかしこれで話を終わってしまうと各方面からお叱りを受けそうなので(私は國本さんほど度胸がありません)、私なりの考えを述べさせてください。
 まずは「悪いのはタバコであってあなたではない。私はあなたの味方であり、あなたが希望するならタバコによるニコチン中毒からの離脱に協力する」ということを繰り返し伝えてみてはどうでしょうか。その際に禁煙によるメリットを伝えることも重要だと思います。肺癌や動脈硬化性疾患などのデメリットについての説明は正常性バイアスが働くのであまり効果はないと思います。タバコを吸うと気持ちが落ち着くというのも、ただ単にニコチン切れの離脱症状が一時的に良くなっているだけの現象であることも伝えてみてください。そして相手がその気になってくれるのを待ってみてはどうでしょうか。生ぬるいと言われることは百も承知なのですが。

 國本康浩さんの「健康増進法」に対する違憲訴訟の趣旨についてという note の末尾に今回の訴訟に関する詳細なPDFがあります。

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