禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

喫煙と慢性閉塞性肺疾患(COPD)

広島大学 理事・副学長
大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学 教授
田中 純子

 喫煙と肺がんの罹患・死亡との関係については、すでに多くの報告があるが、本稿では、COPD(慢性閉塞性肺疾患、Chronic Obstructive Pulmonary Disease)に注目した検討についてご紹介したい。
 COPDは、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症することが多い疾患である。COPDに罹患すると、労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰などの症状が出現することにより、身体活動性や生活の質が低下する1。
 世界保健機構の報告2によると、COPD患者は世界で2億5,100万人(2016年)、この疾病により317万人(2015年)が死亡し、これは、当該年における世界の全死亡の5%にあたると推定されている。
 日本では、約530万人のCOPD患者が存在し、その大多数が未診断、未治療の状態であると考えられており3、当該患者数は40歳以上の人口の8.6%にあたる。一方、COPDは主要な死因の1つであり、死亡数は年間約17,800人(2019年)、死亡原因の9位(男性)を占めている。COPDの治療については、その症状を緩和させ、生活の質を高めることにより、死亡リスクを軽減させることが可能であるが完治は難しいことから、COPDに罹患しないための予防対策が重要である。
 日本における喫煙率は、1965年に男性:82.3%、女性:15.7%であったが、2018年において男性:27.8%、女性:8.7%と、この50年間で著しく低下している4。複数回にわたるたばこ税増税、タバコ製品への注意文言記載義務付けや禁煙治療への保険適応などのさまざまな施策の実施など、喫煙者を取り巻く状況は大きく変化してきた。2000年には健康日本21が策定され、喫煙に関する目標(喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及、未成年者喫煙防止、受動喫煙の防止、禁煙支援)が盛り込まれ、また、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の発効(2005年)など、国内外での喫煙対策が本格化している。
 今回、COPDの発症率は喫煙量とともに増加5する、高タールタバコ喫煙者は肺癌やCOPDの発症リスクが低タールタバコ喫煙者と比較して高い傾向にある6との報告をヒントに、「成人(非喫煙者を含む)1人あたりの年間タール曝露量」を算出し、COPD死亡者数と年次推移を重ねたグラフを図1に示した。

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図1. 成人(非喫煙者を含む)1人あたりの年間タール平均曝露量とCOPD年間死亡者数(1910~2015年)

 喫煙率の減少に転じても、すなわち成人1人あたりの年間タール平均曝露量が減少に転じても、COPDによる死亡数は上昇を続け、ピークの2010年まで30-50年の「タイムラグ」があることが見て取れる。禁煙対策の効果として喫煙率が減少してもCOPD死亡数減少に反映されるまでには時間を要するのである。そこで、これらの条件をモデル化して、医療水準が現在のままと仮定した場合のCOPD死亡数を予測した結果を図2に示す。1970年以後減少してきた喫煙率を反映し2010年以後のCOPD死亡数は減少に転じているが、2040年以後は喫煙集団の高齢化の影響を受け死亡数は一定レベルで維持され、その後、ようやく2060年以後に減少に向かう見込みという結果となった。

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図2. 年間タール曝露量の推移から予測したCOPD死亡数

 禁煙の効果はすぐには表れないが、禁煙活動の推進は、治療薬や医療技術の開発とあわせて、健康寿命の延伸に貢献するものと考えられる。広島県医師会禁煙推進委員会では、引き続き、受動喫煙防止にかかわる啓発活動や禁煙対策への調査など、進めていく予定である。
 (なお、3月修了予定の当科大学院生の研究成果から一部、ご紹介させていただきました)

1 一般社団法人 日本呼吸器学会:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第5版 2018

2 WHO ファクトシート,2016年,2015年

3 NICE study:Fukuchi Y, et al.: COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology. 9 (4): 458-65, 2004.

4 日本たばこ産業による「全国たばこ喫煙者率調査」

5 Lundback B, et al.: Not 15 but 50% of smokers develop COPD?―Report from the Obstructive Lung Disease in Northern Sweden Studies. Respir Med. 97 (2): 115-22, 2003.

6 Lee PN, et al.: Tar level of cigarettes smoked and risk of smoking-related diseases. Inhal Toxicol. 30 (1): 5-18, 2018.

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