禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

急がれる論理的啓発体制の構築と広報戦略

広島県医師会
常任理事 渡邊 弘司

 筆者は腎虚で虚弱体質であるため、テレビや新聞の広告で"マッチョ系"の記事を見るとつい目が行ってしまいます。特にR社の広告は、肥満体から筋肉質に変換する管理システムを売りにしていますが、システムに参加する前後の芸能人の写真を出されると、つい"これはいけそう!"と考え、手を出そうと思います。問題意識を持っている方に目に見える情報を示すのは有効です。しかし、あまり問題意識を持っていない人に問題点を示して理解してもらおうとする場合は難しい。そのためにはEBPM(Evidence-based policy making:統計的な証拠に基づいた立案)が必要です。
 筆者は6年前から禁煙活動に参加させていただいた新参者なので、これまでの禁煙に対する先達の活動や業績には頭の下がる思いですが、現在の新型タバコに対する対応には、因循姑息な気がします。
 たばこ産業(望月友美子先生は"ニコチン産業"と呼ばれています)は、新型タバコは喫煙者にも周囲にも害が少ないということを主張しており、その広報は非常に印象的です。その上、医療者の中にも喫煙される方がおられるのは、ある程度仕方ないかと思いますが、禁煙活動に対し後ろから弾が飛んでくる状況は、どうなんでしょう。ハームリダクションという考え方です。害が少ないからこっちがまし、または、紙巻きたばこから加熱式(新型)タバコに変えると、禁煙の導入に有用という考えです。世界的に議論になっているようですが、新型タバコはハームリダクションとして有用と大阪国際がんセンターに属されている方で、長年禁煙を推進されておられた方が述べられるのはいかがなものかと思います。国立がん研究センターは、電子(新型)タバコによる紙巻きたばこの禁煙の有効率が低いというデータを出しました。電子煙草を使用した人は、使用しなかった人より禁煙成功率が38%低いが、医薬品による禁煙療法を受けた人は受けなかった人に比べ2倍の成功率を示したというものです。この結果から国立がん研究センターでは、電子タバコによる禁煙の有効性を否定しています。しかし、この情報をどれだけの国民が知っているのでしょう。厚生労働省は、受動喫煙を防止するための健康増進法改正で「加熱式タバコ」についても原則禁煙の規制対象とすると公表しましたが、規制は紙巻きたばこよりも緩いものになる見通しです。また、厚生労働省は、2018年度より、受動喫煙防止対策の企画・立案、調整、実施などを担う「受動喫煙対策推進官」を健康局に新設すると発表しましたが、"受動喫煙"対策であり"禁煙"対策ではありません。松村広島市医師会長は、第56回十四都市医師会連絡協議会において「受動喫煙対策はあくまで外堀であって本丸は禁煙です。いったいいつまで、受動喫煙対策に取り組んだらよいのか」と発言されたそうです。
 学会なども新型タバコの害について見解を発表しています。日本呼吸器学会「非加熱・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解」や日本禁煙学会、結核予防会結核研究所の森亨名誉所長らです。しかし、多くの国民にこの内容が周知されているようには思えません。また、新型タバコに対する見解も、喫煙者の害、受動喫煙の害など主たる論点がバラバラで、何がどう悪いから反対なのか主旨が一貫していません。反対活動が中途半端なまま、たばこ産業側に既成事実を積み重ねていかれることが最も危惧されることです。
 広島市市議会議員の沖宗氏は、「受動喫煙禁止条例設定に向けた努力をしたが財源とスタッフが圧倒的に不足したため平和公園全面禁煙に活動方針を転換した」と述べられました。
 筆者は、これまでいくつかの禁煙を主とする学会や研究会に参加させていただきました。確かに会ごとに微妙な考えが異なることが分かりました。しかし、禁煙を進めるという大きな目標は一つであるはずです。財務省をバックにするたばこ産業に対抗するには、竹やりでは対応できません。説得性のあるデータを集積するには、ある程度の調査対象母数と財源が必要です。広報も論旨を明確にした分かりやすいアピールをすべきです。この際、各学会や団体は小異を捨てて大同につくことはできないものでしょうか。そうでなければ、いつまでたってもたばこ産業の後塵を拝さなければなりません。

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