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知っておきたい産婦人科の救急

目次

婦人科の救急

出血

卵巣機能不全、子宮筋腫(分娩筋腫など)

痛み

(1)腹痛

卵巣腫瘍・茎捻転卵巣出血卵巣腫瘍の破裂(チョコレート嚢胞破裂)

附属器炎、骨盤腹膜炎、子宮筋腫の変性

(2)外陰部痛

外陰潰瘍、ヘルペス外陰炎

(特発性外陰潰瘍、ベーチェット、外陰ヘルペス)

(3)頭痛

月経前症候群、更年期障害

発熱

骨盤腹膜炎、卵巣卵管炎

嘔吐

腸閉塞(婦人科悪性腫瘍)、化学療法後、放射線治療後

呼吸困難

月経随伴性気胸(異所性内膜症)

意識障害

成熟奇形腫(抗NMDA受容体抗体脳炎)

外傷

外陰部血腫、膣壁裂傷

①~⑨について解説します

① 卵巣機能不全

卵巣機能不全とは、ホルモンの分泌異常により月経不順となった状態ですが、不正出血、過長月経を伴うときの診断には、器質的な疾患の除外が必要です。通常、ホルモン剤の投与で改善しますが、大量出血、重度の貧血がある場合は入院加療となることもあります。ホルモン的な治療で効果がない場合、妊娠の希望がなければ、MEA(子宮内膜焼灼術)や子宮全摘も考慮されます。

② 卵巣腫瘍・茎捻転

卵巣には、他の臓器に比べて多くの種類の腫瘍ができます。卵巣腫瘍は、液体貯留した腫瘍(のう胞性腫瘍)と固形の腫瘍(充実性腫瘍)に分類されます。のう胞性腫瘍は、卵巣腫瘍の85%を占めており、良性腫瘍が多くを占めます。充実性腫瘍は、15%を占めており、そのうち70%は悪性と言われています。また腫瘍が大きくなっても、捻じれたりしなければ症状がないこともあります。腫瘍が捻じれる(捻転)ことにより、激しい下腹部痛、嘔気、嘔吐が起こり、鎮痛剤も無効な場合があります。卵巣腫瘍の捻転と診断されると、通常は緊急手術が必要となります。一般には、捻転した卵巣腫瘍は正常卵巣を含めて切除します。ただ、妊娠の希望がある場合や、未婚の方の場合は、卵巣の状態により捻転した卵巣腫瘍のみ切除し、正常卵巣部分を残せるケースもあります。チョコレート嚢胞などは癒着していることが多く、サイズにかかわらず、捻転することはありません。しかし、チョコレート嚢胞は破裂する可能性があります。

③ 卵巣出血

排卵期に起こる卵胞出血と黄体期に起こる黄体出血の2種類の卵巣出血があります。大量の腹腔内出血を引き起こすのは、黄体期の卵巣出血です。性交渉も出血の誘因の1つと考えられています。突然の下腹部痛と腹腔内出血により貧血となります。卵巣出血と診断されても、かならずしも手術による止血が必要ではありません。大量の腹腔内出血があっても、自然止血することも多いので、安静、輸液などで経過観察が可能なこともあります。出血量、全身状態、他の出血の可能性など総合的な判断により、手術となることもあります。

④ 卵巣腫瘍の破裂(チョコレート嚢胞破裂)

卵巣腫瘍が自然に破れることがときにあり、ひどい下腹部痛を引き起こします。卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート状の古い月経血が溜まった嚢腫であり、内容液の性状からチョコレート嚢胞と呼ばれます)が破裂すると、腹腔内に内容液が漏れて強い痛みを起こします。痛みが強いので緊急手術となります。

⑤ 附属器炎、骨盤腹膜炎

附属器炎(卵管炎、卵巣炎)さらに炎症が骨盤腹膜に広がったものを骨盤腹膜炎と呼びます。

淋菌やその他の細菌、クラミジアなどが原因となって、卵巣卵管炎や骨盤腹膜炎が起こります。糖尿病合併や子宮内避妊器具(IUD)を長期間装着している場合は、子宮の感染を起こしやすいので注意を要します。発熱や下腹部痛、膿性帯下などがあり、抗生物質で治療しますが、子宮や卵管に膿が溜まった場合は、排膿のための手術が必要になることがあります。

⑥ 外陰潰瘍、ヘルペス外陰炎

陰部ヘルペスは、単純ヘルペスのⅡ型の感染によるものでしたが、性行動の変化により単純ヘルペスⅠ型による感染も増えています。初発型、再発型がありますが、救急で問題となるのは初発型です。文字通り初発時には、発熱、多発外陰潰瘍、そけいリンパ節が腫大します。また、痛みのため排尿障害(Elsberg症候群)、歩行障害が起こったり、髄膜刺激症状を伴う場合は、入院加療が必要になります。再発型の場合は、症状が初発に比べて軽度であることが多く、外来での治療となります。治療としては、抗ウィルス剤内服、外用、ときに点滴が行われます。ベーチェット病や特発性外陰潰瘍などとの鑑別が必要です。

⑦ 月経随伴性気胸(異所性内膜症)

子宮内膜症は、子宮、卵巣卵管、骨盤内に発症することが多く、その他に頻度は少ないのですが、全身の臓器、組織に起こりえます。胸腔内子宮内膜症は、全身臓器の内膜症の2%を占めていますが、肺子宮内膜症は、月経周期と連動して起こる血痰、喀血などを生じ、胸膜内膜症では、気胸(月経随伴性気胸)を合併します。組織検査の結果による診断が望ましいのですが、組織の採取が難しいことが多く、月経に連動することで臨床的に診断されます。治療的にはホルモン療法(偽閉経療法、黄体ホルモン療法)がありますが、保存的療法が無効のときは、手術療法が必要になります。妊娠を希望している場合は、ホルモン療法で排卵が抑制されるため適応になりません。

⑧ 成熟奇形腫

卵巣腫瘍の30~40%を占める一般的な卵巣腫瘍です。脂肪、髪の毛、歯、脳組織などが含まれているのが特徴の腫瘍です。非常にまれですが、成熟奇形腫が意識障害の原因となることが知られています。成熟奇形腫と関係が深い脳炎(抗NMDA受容体脳炎)の存在が知られてきており、意識障害、不随運動などの症状により、神経内科などから紹介となることが多いようです。必ずしも成熟奇形腫と合併していないこともありますが、合併している場合は、一般に手術となり、脳炎の症状の改善も期待できます。また、通常の卵巣嚢腫と同様に、捻転を起こせば腹痛の原因となります。他の特徴としては、成熟奇形腫に含まれる内容液は化学性腹膜炎を引き起こすことが知られており、その癒着が高度であれば腸閉塞を起こすこともあります。内容液を漏らさないように注意をして手術を行う必要があります。

⑨ 外陰部血腫

小児が鉄棒などの遊具で遊んでいるときによく起こる事故です。足を滑らせてに、鉄棒などに股間をぶつけて、外陰部に血種(内出血)を生じる疾患です。血種が大きく痛みがあり、歩行が難しいようなときは、入院の上、切開して血種除去が必要になります。

膣壁裂傷

性交時に膣壁裂傷を起こすことがあります。性交時に出血することもあり、性交後に出血が始まることもあります。少量の出血であれば経過観察が可能ですが、出血が多量にあるようなら受診が必要です。その場合、裂傷部位の縫合、止血が必要となります。外来での処置が難しければ、入院して麻酔下に縫合を行います。


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