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知っておきたい心臓病の救急

目次

II 急性心筋梗塞と狭心症

1 病気について

心臓は1日に約10万回拍動し、全身の臓器へ血液を送り出すポンプの役目を担っています。すべての臓器は心臓から供給される血液に含まれる酸素や栄養分をもとにそれぞれの役割を果たしていますが、心臓自体も例外ではありません。心臓の表面には心臓自体にエネルギーを与えるために、3本の "冠動脈"が流れています。この冠動脈を通じて心臓に血液が供給され心臓は動いているのです。人は年を重ねるとともに、この冠動脈の壁に不要なコレステロール(脂質)がたまり、血管が硬くなっていきます。いわば血管の老化現象であり、これを動脈硬化と呼びますが、それが年相応であるのか、同年齢の方と比べて進行しているのかが問題です。この動脈硬化の加速は、いくつかの因子が関わって起こることが知られており、これらを危険因子と呼びます。この危険因子とは、高コレステロール血症であり、高血圧であり、糖尿病であり、喫煙です。危険因子が重複すると動脈硬化は加速度的に進行してしまいます。動脈硬化が進み血管内腔(ないくう)(血管壁の内側)がおよそ75%を超えて狭くなると、心臓を動かすための血液供給が不十分となります。これは"心筋虚血"の準備状態です。心臓の負担が増える状態、たとえば、坂道を登る、重たいものを抱える、怒りで興奮する、急に寒冷にさらされる、などの行動によって"心筋虚血"が現れます。これらは急激な血圧上昇や脈拍上昇をきたす動作であり、心筋虚血を起こします。心筋虚血の状態となると、心臓が発するSOS信号として胸の中央で圧迫感を感じるようになります。これが"狭心症"と呼ばれる病気です(図1)。狭心症の段階では、安静にし、血圧や脈拍が落ちついてくると、胸部圧迫感は長くても15分以内で消失してしまいます。冠動脈の内腔が更に狭くなり、血栓という血の塊が狭いところに付着したりすると、冠動脈は完全にふさがった状態となり、心臓へ血液が供給されなくなります。すると、そこから先の心臓の筋肉は死んでしまい、強い胸痛、冷汗などの症状が長時間続きます。これが"急性心筋梗塞"とよばれる病気です(図1)。狭心症や急性心筋梗塞は、冠動脈が狭くなったりふさがったりする心筋虚血が原因で起こる病気ですので、2つをまとめて"冠動脈疾患"あるいは"虚血性心疾患"と呼びます。

図1

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2 心筋梗塞の治療

もし急性心筋梗塞が起きたら、できるだけ早く治療を開始したほうがその後の経過が順調であることは言うまでもありません。症状を我慢しないで直ちに119番に電話をしてください。そして、自家用車ではなく救急車で病院に来てください。なぜなら、心筋梗塞の発症時には、強い胸痛、冷汗といった自覚症状だけではなく、危険な不整脈も生じやすい状態となっています。もし不整脈が生じる事態となっても救急車であれば電気ショック治療の装備もあり、救命士による迅速な対応を受けることができるからです。さらに早急に病院を受診することが可能となります。病院に到着したら、直ちに治療が開始されます。胸痛を緩和するために痛みを抑える注射をします。冠動脈がふさがった先の心臓の筋肉は酸素不足となっているため、酸素吸入をはじめます。また心筋梗塞のときには冠動脈の内腔(ないくう)(血管壁の内側)が狭くなったところに血栓が付着しているためにアスピリンなどの抗血小板薬(いわゆるサラサラ薬)が必須で、さらに冠動脈の拡張、血流改善を目的にニトログリセリンを点滴します。しかし、これらの治療だけでは十分な血流再開は期待できません。心筋梗塞で最も重要な治療は、ふさがった冠動脈を再び開通させる"再潅流療法(さいかんりゅうりょうほう)"であり、この治療により心筋梗塞の拡大をおさえることが可能となります。一刻もはやく再開通させることが治療の要点であり、発症後6時間までに再開通させることができれば心筋梗塞の拡大をおさえられることが確認されています。結果的に小さい心筋梗塞で抑えることができれば、その後の経過が順調となります。そのためには、もし急性心筋梗塞が起きたら、"直ちに救急車で病院に行くこと"が非常に重要なのです。

次に再潅流療法についてお話します。病院に到着したら、速やかに冠動脈のどこがふさがっているのかを確かめるために特別な手術室で検査を行います。足の付け根、肘あるいは手首の動脈から直径2~3mm程度の管(カテーテル)を挿入し、心臓付近まで進めて冠動脈の写真を撮影します(図2)。この検査によりどこの冠動脈がふさがったのか、ほかに狭いところがないかが判ります。次に先端に風船(バルーン)のついたカテーテルを使ってふさがった部分を拡張させます。バルーン治療によりいったん流れはよくなりますが、十分な拡張が得られなかったり、拡張してもすぐにふさがったりすることがあります。そのため、最近では金属を網の目にした筒(ステント)を冠動脈の内側に入れてふさがらないように補強するステント治療が主流となっています(図3)。再潅流療法後は、数日間は危険な不整脈や心不全に対応できるように集中治療室で経過を観ます。その後、一般病棟で飲み薬の調整や自宅での生活復帰に備えてリハビリを段階的に進めていきます。心筋梗塞の大きさにもよりますが、順調に経過すれば10~20日で退院となります。

図2

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図3

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3 予防しよう(検診へ行こう)

心筋梗塞になってしまったら直ちに病院を受診することがとても重要です。

しかし、本来は心筋梗塞にならないことが一番であり、そのためには日頃から気をつけて予防していくことこそ肝心です。狭心症や心筋梗塞の根源には動脈硬化があり悪玉コレステロールや喫煙が深く関わっています。一方、この悪玉コレステロールが高くなくても、肥満を中心に中性脂肪や血圧、血糖が高いと狭心症や心筋梗塞を起こすケースがあり、このような状態をメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)、通称メタボと呼んでいます。日本では2005年に診断基準が決定され、特定健診制度でもこの基準が用いられています。原因は過食と運動不足にあり、肥満は動脈硬化を起こしやすい体質のサインなのです。一般検診では腹囲や血圧測定に加えて、コレステロールや中性脂肪、血糖を含めた血液検査が行われます。メタボのそれぞれの因子の数値を改善していくことはもちろん重要ですが、メタボ解消の狙いは動脈硬化の予防にあることを理解しておきましょう。検診をうまく活用して、メタボに該当する方は食事内容、運動量、禁煙など生活習慣を見直してみましょう。保健師さんによるアドバイスも受けられます。



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