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知っておきたい眼科の救急

目次

Ⅰ 急性緑内障発作

◆緑内障とは

まず緑内障という病気とはどんな病気でしょうか? 緑内障は、日本緑内障学会のガイドライン(第三版)によると、「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義されています。簡単に言うと、眼圧が高いために視神経が傷んで視野が狭くなってくる病気と言えます。

緑内障は、古くから、眼圧が上昇することで視神経が障害される病気として理解されてきましたし、実際に眼圧を下降させることが治療として有効なことも知られています。

◆救急医療における緑内障

緑内障は、我が国における失明原因の第1位を占めています。日本緑内障学会で行った大規模な調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は、5%であることが分かりました。つまり40歳以上の日本人には、20人に1人の割合で緑内障の患者さんがいるということになります。

緑内障の中には様々なタイプの病型があります。通常、緑内障は自覚症状なしに徐々に進行してくるものが多いのですが、一部には急激に失明にまで至ってしまう可能性のあるものもあり、急性緑内障発作と呼ばれます。ある日突然発症し、症状の進行が早ければ失明してしまう可能性もある緑内障です。

通常の緑内障の場合、じわりじわりと症状が進行していくために、初期の段階では自覚症状がありません。しかし、急性緑内障発作の場合は、突然発症して眼圧が急上昇するために、目の痛みや吐き気、頭痛など様々な症状を引き起こします。

救急医療における緑内障

◆急性緑内障発作の原因

眼球は房水というもので満たされています。「房水」とは眼の中を循環する液体のことで、毛様体という組織で作られて、虹彩と水晶体の間を通過して前房に至り、線維柱帯を経てシュレム管から排出され、眼外の血管へ流れていくという定まった経路で循環しています(図1)。この房水の循環によって、ほぼ一定の圧力が眼内に発生し眼球の形状が保たれます。この圧力のことを「眼圧」と呼びます。眼圧が上昇すると視神経が障害されやすくなり、緑内障になるリスクが高くなります。

図1

図1 前眼部の構造と房水の流れ

狭隅角とは、隅角が狭くなり、房水が流れにくくなってしまうことを言います。狭隅角が進むとついには隅角が詰まって房水が流れなくなります。これを閉塞隅角と呼びます。

いったん隅角が閉塞すると、房水の流出が滞り、毛様体で産生された房水が虹彩の裏側に溜まってしまいます。そうすると溜まった房水は虹彩を上に押し上げるので、隅角はますます狭くなります。つまり悪循環です。部分的な閉塞が広い範囲の閉塞へと進み、ついには全く流れなくなります(図2)

房水が作られ続け、隅角から流れ出なくなると、眼圧はどんどん高くなります。通常の眼圧は10~20mmHg(ミリメートル水銀柱)くらいですが、これがひどい場合には50mmHg以上に上昇します。この状態を急性緑内障発作と呼んでいます。

症状としては、眼痛、頭痛、吐き気、かすみなどです。頭痛や吐き気だと内科や脳外科を受診することが多く、医師が緑内障発作の可能性に思い至らないと眼科での治療が遅れてしまいます。

図2
・頭痛 ・眼痛 ・吐気、嘔吐 ・視力低下
・結膜充血 ・瞳孔の散大 ・対光反応の消失

図2 急性閉塞隅角緑内障の症状

発作を起こすと視野が欠け、それは一生元には戻りません。中心視野が障害されると見えづらくなり、視力も低下します。これは発作を起こしている間に視神経がどれだけダメージを受けたかで決まります。眼圧が50mmHgに上昇したまま1週間も経てば失明してしまうこともあり得ます。速やかに発作を解除して眼圧を下げることが大切です。

高齢者では目の知覚も鈍麻していて眼圧が高いのに本人の訴えがほとんどないことがあります。本人が嫌がっても周囲が受診させましょう。

◆急性緑内障発作の治療・予防

1)白内障手術

なぜ白内障手術で緑内障発作が予防できるのでしょうか?白内障になると一般に水晶体は分厚くなります。水晶体が後ろから虹彩を押し上げるため、隅角は狭くなります。白内障手術で挿入する眼内レンズは元々の水晶体に比べればはるかに薄く、術後隅角は大きく開きます。薄い眼内レンズに入れ替えることで狭隅角や緑内障発作を解除させることができます(図3)

2)周辺虹彩切開・切除術

手術で周辺部の虹彩を切り取ったり、レーザーを使って虹彩周辺部に穴を開けたりする方法です。この穴が房水の近道となり、隅角を開かせます(図3)

図3

図3 急性緑内障発作の治療・予防法

前述した白内障手術では、術後に眼内レンズに置き換わってしまうために調節力が失われるという欠点がありますが、周辺虹彩切開・切除術では水晶体を温存するために調節力も維持されるというメリットがあります。また、発作時には急激な眼圧上昇のため角膜がはれて混濁するために、白内障手術やレーザー治療が難しくなります。周辺虹彩切開術は角膜の混濁の有無にかかわらず比較的安全に行える手技です。

緑内障発作を起こすと反対眼も同じように発作を起こす確率が高くなります。反対眼の発作予防にも周辺虹彩切開は使われます。発作時よりも予防のほうが、レーザー治療ははるかに容易かつ安全に実施できます。

3)緑内障発作を誘発する薬

風邪薬、抗ヒスタミン薬、睡眠薬、手術前に注射するアトロピンなどは急性緑内障発作を起こす危険があります。共通点は抗コリン作用があって一時的に隅角を狭くさせることです。多少狭隅角になっても完全に閉塞しなければ、いずれ元に戻るので何も起こりません。しかし、ある限度を超えて完全閉塞に陥ったら、急性緑内障発作へ突き進みます。

また、散瞳も一時的に隅角を狭くするので、緑内障発作の引き金になる可能性があります。

安心して薬をのみ、安全に散瞳検査を受けるには、前述したような予防処置を受ける必要があります。

(杉本 洋輔)


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