救急小冊子

救急小冊子のお申し込み

緊急時の対策や予防など様々な情報をご覧いただけます。

※救急小冊子内の記載事項及び連絡先等は発行当時のものです。

知っておきたい眼科の救急

目次

III 眼部鈍的外傷

◆眼部鈍的外傷とは

眼部打撲の原因は転倒、スポーツ、けんか、交通事故などが多く、その症状も多彩です。

その重症例として、眼球自体が破れてしまう眼球破裂、眼窩(眼球とその付属器が入っているくぼみ)の骨壁が骨折する眼窩骨折があります。それぞれのけがの状態、どのような症状のときに眼球破裂、眼窩骨折を疑い、どのように対応したらよいかについて解説致します。

◆眼球破裂

1)機 序

やや突起のあるものが眼球に強く当たることで眼球壁が伸展され、当たった部位または眼球壁の薄い部分が破れてしまい、眼内組織が脱出してしまう疾患です。(図5)

2)症 状

視力低下、疼痛、出血は必ずみられます。また、眼内の液体が漏出することで温かい涙が出ることが眼球破裂の特徴です。

図5

図5 眼球破裂

3)対応・治療

早急な眼科受診が必要です。眼球破裂と診断された場合はCT検査や超音波検査などの画像診断でガラス片などの異物迷入を確認して手術方法を検討します。初期治療の原則は眼球の縫合処置と細菌感染対策ですが脱出した眼内組織は元には戻せません。数日後に網膜剥離や細菌感染を起こすこともしばしばあり、追加の手術を行っても視力の回復は期待できません。破裂した眼球の炎症が長引くと、もう片方の眼球にも炎症が及ぶこともありますので受傷後は反対眼の検査も必要です。

眼球破裂に至らず眼球打撲に留まっていれば視力の改善が期待できることもあります。

◆眼窩骨折

1)機 序

野球のボールのように突起のないもので眼部に強い打撲を受けると眼窩内部の圧力が急激に上昇し、骨がとても薄い眼球下部または鼻側の骨壁が骨折してしまうことがあります。その内圧上昇のために骨折と同時に眼窩内の眼球付属組織が副鼻腔へ脱出してしまう疾患です。(図6)

図6

図6 眼窩骨折

2)症 状

眼部腫脹、眼球運動時痛、眼球運動障害、頬部の知覚異常、場合によっては複視(ものが二重に見える)、視力低下などがあります。20歳以下の若年者の場合は打撲直後からの吐き気、強い眼球運動時痛を伴うこともあります。

3)対応・治療

成人の場合には緊急手術が必要となることはあまりなく、数日以内の受診で問題ないことが多いと言えますが、未成年者の場合で著明な眼球運動時痛や吐き気を伴うときは早急な治療が必要です。

【成人と若年者の違い】

若年者は骨自体が柔らかいために眼窩壁の骨折は不完全で、骨折部に眼球付属組織が挟まれたままとなることがしばしばあります。この場合は吐き気と強い眼球運動時痛を伴います。これは「閉鎖型眼窩骨折」と言われ、挟まれた組織の程度次第で高度な眼球運動障害、複視をきたし、時間の経過とともに挟まれた組織には虚血による障害が進行してしまうため、手術時期が遅れると眼球運動障害が後遺症として強く残ることがあります。挟まれた状態は自然に解除されることはありませんのでCT検査(図7)で診断がついたら緊急手術治療が必要です。

特に注意したいのが小児例で、顔面打撲後に吐き気があると頭蓋内出血の検査がまず優先され、頭部CT検査が行われます。頭部CTで異常なしと判断された場合にすぐに安心せず、眼球運動時痛があるときにはCT画像を見直して閉鎖型眼窩骨折が隠れていないかの確認が必要です。ただし、骨壁が柔らかいために骨片自体の偏移はあまり目立たず、注意深いCT画像の確認が必要です。

図7

図7 閉鎖型眼窩骨折(骨折部に下直筋が狭まれている。)

成人の場合の眼窩骨折では骨壁自体は完全に折れることがほとんどで、骨折部は開放状態となっており「開放型眼窩骨折」と言われます図8。骨折の範囲や眼球付属組織の脱出程度により、その眼球運動障害の程度も様々です。自覚的な症状やCT検査、眼科検査結果などをふまえたうえで総合的に手術治療が必要かどうかを判断します。

眼窩骨折は病名に「骨折」という単語が含まれていますが、その治療目標は骨折片を元の位置に戻すことではなく、閉鎖型・開放型ともに「正常な眼球運動を回復させること」です。いずれも適切な時期に適切な検査・治療を受けることが大切です。

図8

図8 開放型眼窩骨折

【その他の注意事項】

眼窩骨折が起きるとしばしば鼻出血を伴います。強く鼻をかんでしまうと骨折部を通って眼窩内に空気が逆流します。眼窩内に空気が迷入すると眼球運動障害を悪化させますので手術治療の適応を判断しにくくし、結果的に必要であったはずの手術時期が遅れることになりかねません。眼窩骨折を受傷した可能性があるときは鼻をかまないようにしましょう。

(板倉 秀記)


前ページ:「II 網膜中心動脈閉塞症」へ 

戻る

 次ページ:「IV 角膜外傷」へ