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知っておきたい薬物の乱用・依存に関する基礎知識

目次

III.薬物乱用の成り立ち

1.薬物乱用の定義

 <薬物乱用>とは、薬物を医学的常識、法規制あるいは社会的習慣に反した目的あるいは用法のもとに過剰に摂取する行為をいいます。より具体的には、医薬品を医療目的から逸脱した用量・用法や目的のもとに使用すること、あるいは有機溶剤・大麻のように医療目的のない薬物を不正に使用することをいいます。法律で規制されているシンナー・覚せい剤・大麻などの不正な使用は、たとえ一回の使用でも、「乱用」に当たります。

2.薬物乱用の三要因(図表3)

薬物乱用・依存の三要因

 一般的にいって薬物の乱用・依存は、依存性を有するAgent要因としての<薬物>と、薬物を使用するHost要因としての<ヒト>と、薬物の使用を取り巻くEnvironment要因としての<家族・仲間・環境>とが合わさったところに、成り立つと考えられております。これらの条件が整うと、大流行も見られるのです。

3.薬物乱用防止対策

 薬物乱用防止対策は<薬物乱用の三要因>のそれぞれに対して、同時に並行して行われるのが最も有効です。薬物乱用防止対策は薬物の供給と需要の削減を目標とするのですが、主に<薬物>に焦点を当てた対策は、薬物の密造・密輸・密売など不正な流通の取締りの強化と厳正な処罰であり、これは<薬物の供給の削減>に役立ちます。次いで、主に<ヒト>に焦点を当てた対策としては、刑事施設や医療施設における薬物乱用者・依存者の治療・処遇とリハビリテーションであり、これは現在使用中の当事者を減らす効果があるため、直接的に、<薬物の需要の削減>に役立ちます。最後に、主に<環境要因>に焦点を当てた対策は、薬物乱用を許さない社会環境を作るための学校などにおける予防教育や地域社会における啓発活動などの推進であり、間接的ではありますが、将来における<薬物の需要の削減>に役立ちます。さらに、薬物乱用の問題はSARSAIDSのような感染症と同様に、国際的な種々の問題を含むため、上記の3分野における調査・研究を含めた<国際協力の推進>が是非必要ですので、WHOなどの国際機関が関わっております。

4.主な依存性薬物と規制法(図表4)

AGENT要因:主な依存性薬物と規制法

 乱用される危険のある薬物は"こころ"すなわち精神に影響を与える作用をもっており、中枢神経系を興奮させたり抑制したりして、多幸感、爽快感、酩酊、不安の除去、知覚の変容、幻覚などをもたらす働きがあります。使用量によっては、急性中毒症状のために直接死につながる危険もありますが、特に問題となるのは、これらの薬物のうち連用することにより<依存性>を有するものです。<依存性薬物>は依存形成物質、精神作用物質などとも呼ばれ、特に乱用が流行して社会的に問題になる薬物は、乱用薬物といわれます。依存性薬物の範疇に入る薬物は主要なものでも数百種類もあります。

5.薬物乱用・依存は育ち盛り・働き盛りの青少年を冒す病気(図表5)

 薬物事犯者の取締法別にみた年齢階級別の構成を「犯罪白書」から筆者が作図したグラフです。薬物事犯者のうち、78割は所持・使用違反者です。

HOST要因:法別薬物事犯者の年齢階級別構成

 シンナー等の有機溶剤乱用の最盛期には、19歳未満の未成年者が80%以上を占めていたのですが、最近ではかなり押さえ込まれておりますので、20歳を過ぎても有機溶剤依存から抜けきれない人たちが多くなっているため、未成年者の比率は40%以下となっております。大麻やMDMAでは育ち盛り・働き盛りの20歳代・30歳代が60%以上を占めております。覚せい剤になりますと、再犯を繰り返す人も多くなるため、40歳代の年齢も4分の1は含まれるようになります。
 最下段には一般人口の構成比を表しておりますが、一般人口は高齢化が進んで、いまや50歳以上が40%を超えております。薬物の乱用依存はご覧のように、<薬物乱用・依存は育ち盛り・働き盛りの青少年を冒す病気である>と言えるでしょう。

6.薬物乱用・依存の成り立ち~薬物乱用−薬物依存−薬物中毒の関係~(図表6)

 ここでは先ず、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長の和田 清先生から提供された図表6によって、用語のおさらいをしておきましょう。

薬物乱用―薬物依存―薬物中毒の関係

 「乱用」は薬物を社会的許容から逸脱した目的や方法で自己使用する行為を表しております。「急性中毒」は薬物乱用の結果、薬物の毒性によって直接引き起こされた緊急な治療を要する身体および精神の状態で、生命を落とす危険もあります。
 「依存」は乱用を繰り返した結果、脳が変化を受けて「自己コントロール」ができず、止められない状態をいいます。依存には、<精神依存><身体依存>があります。タバコを切らすと、イライラして集中力を欠いてくるので、れっきとした紳士でも、友人からもらったり、灰皿からしけもくでも拾って吸ったりするのは<精神依存>の表れです。アルコール依存症ではアルコールが切れてくると、手が震えたり吐き気がしたり、けいれん発作を起こしたり、夜間眠らずに嫌な夢を多く見て、ひどいときには寝汗をびっしょりとかき、<せん妄状態>という意識レベルの低下状態に陥り、幻覚にもとづいてトンチンカンな言動を呈することもあります。これは<身体依存>の表れです。このように中枢神経系の抑制薬では、連続的な使用を中断すると、使用している薬物特有の<禁断症状(離脱症状)>が発現するため、自ら依存から脱却することは難しくなります。しかし、薬物依存の基本は精神依存であり、コカインやアンフェタミンでは身体依存はないと言われていますが、依存性は高いのです。
 更に「慢性中毒」は依存にもとづく乱用の繰り返しの結果、薬物が持っている毒性によって、直接身体が障害されたり、精神が障害された状態を言います。
 従って、薬物乱用者には、(1)乱用だけの乱用者、(2)依存が問題で、未だ慢性中毒のない乱用者、(3)慢性中毒にまで至った乱用者の三種類があります。他に(4)後遺症で悩んでいる元乱用者がいるのです。


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