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知っておきたい“腹痛(おなかが痛い)”のポイント

目次

I.消化器疾患と腹痛

図2 腹痛の部位に特長のある消火器疾患

腹痛のため、病院を受診する原因疾患として最も頻度が高いのが消化器疾患です。しかし、腹痛をきたす消化器疾患は多種多様で、自然に治癒する軽症の ものから、生命にかかわる重症なものまで幅が広く、診断が容易でない場合があります。診察医が迅速に正しい診断をして適切な対処をするために、腹痛に関す る情報を正確に伝えて頂くことが重要な役割を果たします。消化器疾患による腹痛は、発症様式、部位や性状、随伴症状などからある程度、原因疾患を推定する ことが可能であるため、診断に際して以下のポイントが役に立ちます。

発症様式

腹痛がどのように出現し、時間経過とともにどのように変化するかは疾患を推定する上で重要です。突然、ある瞬間を境に急激に痛くなった場合は、大 動脈瘤破裂や大動脈解離、腸間膜動脈血栓症などの血管病変が第一に疑われます。消化器疾患でこのように急激な経過きたすことは比較的まれですが、消化管穿 孔(消化管の壁に穴が開いて、消化液や食物などが消化管の外へ漏れ出す状態)では突発的な激痛から始まることがあります(図1a)。いずれにしても開腹手術を必要とするような緊急性が高い疾患の可能性が高いため、注意を要します。また、高齢者や肥満のある方は、概して痛みに対して鈍感となり、痛みの程度が軽くても重症な場合があるので注意が必要です。

増悪/寛解因子

食事や排便により腹痛が増悪または軽減する場合は消化管に原因がある場合が多いです。一般的に胃潰瘍では食事により腹痛が増悪する一方(図1b)、十二指腸潰瘍では食後に痛みが一時的に軽快することが多いといわれています(図1c)。排便や放屁により腹痛が軽減する場合、過敏性腸症候群など大腸に由来した腹痛が考えられます。また、胆石症による腹痛では、油ものを摂取後に腹痛が出現するのが特徴的です(図1d)。この他、体位で腹痛が軽減する場合があり、膵炎などの後腹膜臓器に原因がある場合は座位では前傾姿勢を、臥位なら胸膝位(膝を曲げて腹ばいになる)で痛みが和らぐことがあります。

図1 腹痛と発症様式と増悪/寛解因子

腹痛部位と疾患

腹痛のある部位に必ずしも痛みの原因となる臓器があるとは限りませんが、図2に示すとおり、おおまかに腹痛部 位から原因疾患を推定することが可能です。腹部全体が痛いのか、それとも腹部の限局した部位が痛いのか、痛みの部位は診断において欠かすことの出来ない重 要な情報になります。また、疾患によっては、時間経過とともに痛みの部位が変化することがあります。例えば虫垂炎の場合、初期にみぞおち付近に痛みを自覚 し、徐々に右下腹部に痛みが限局してくることがあります。さらに、痛みの特殊な例として関連痛があります。これは、内臓での痛み刺激が脊髄神経に刺激を与 え、臓器のある部位とは隔たった皮膚などの体表に限局的に痛みを感じるものです。胆石症では右肩、膵炎では左のみぞおちから背部にかけて、十二指腸潰瘍の 穿孔では右肩に関連痛を認めることがあります。

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随伴症状と疾患

消化器疾患による腹痛の場合、腹痛以外の随伴症状を認めることが多く、診断の手がかりとなります。随伴症状として認める頻度の高いものとして、嘔気・嘔吐、下痢、発熱、腹部膨満、吐血・下血、黄疸などが挙げられます。

緊急を要する消化器疾患

腹痛の程度には個人差があり、痛みの程度だけで原因疾患の重症度を判断することは困難ですが、以下の項目が当てはまる場合には重症である可能性が高く注意を要します。

1.腹痛が出現して短時間で激痛となる

2.吐血・下血や黄疸、発熱などの随伴症状を認める

3.腹痛が出現してから便や放屁がでない

4.歩くと患部に響く

5.体重減少を認める

6.痛みのため睡眠から覚醒する

これらで当てはまる項目が増すほど重症である可能性が高いため、早めの病院受診をお勧めします。

腹痛をきたす頻度の高い消化器疾患

1.感染性腸炎

ウイルスや細菌が腸管に感染することが原因となり、腹痛とともに下痢が主症状となります。発熱や嘔吐、さらに血便などの症状を認めることもありま す。いわゆる食中毒も感染性腸炎の一種で、汚染された食物を摂取することで発症します。途上国旅行中や帰国後に発症した場合、特殊な微生物による感染性腸 炎(細菌性赤痢、コレラなど)の可能性があるため注意を要します。感染性腸炎の治療は、一般的に脱水予防のための水分補給が主体となります。

2.虫垂炎

典型例ではみぞおちから臍にかけての痛みから始まり、数時間を経て右下腹部へと痛みが限局してきます。腹痛に伴い下痢や嘔吐を認めることは稀です。適切に診断・治療を行わないと消化管穿孔や腹膜炎をきたし重症化することがあるため早期に受診することが重要です。

3.腸閉塞症(イレウス)

なんらかの原因により、腸管の内容物の通過が障害された状態を腸閉塞症といい、腸管の血行障害を伴う絞扼性イレウスと、血行障害を伴わない単純性 イレウスに分類されます。通過障害により、吐き気や嘔吐、腹部膨満感を認め、排便や放屁が停止します。腹痛は単純性イレウスの場合は周期的に増悪・寛解す る間欠痛で、絞扼性イレウスでは持続的な鋭い痛みを自覚します。腹部手術を受けたことのある方は本疾患の罹患率が高く、注意を要します。

4.過敏性腸症候群

各種検査で異常が認められず、腸の機能異常が原因と考えられています。慢性的(3か月以上)、反復性に下痢や便秘などの便通異常を伴う腹痛をきたし、ストレスで増悪することがあります。排便で腹痛が軽減する点が特徴的です。

5.消化性潰瘍

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の総称です。胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時にみぞおちの痛みを自覚する傾向にあるといわれますが、食事との関連が不明瞭なこともあります。

消化性潰瘍の成因として、胃内に生息しているヘリコバクター・ピロリ菌が重要視され、潰瘍を再発するケースでは積極的に除菌療法が行われます。また、解熱鎮痛薬の中には消化性潰瘍を誘発するものがある点にも注意を要します。

6.胆石発作

成人の10人に1人は胆石保有者と言われています。健康診断などにおける腹部超音波検査で胆石の存在を指摘された方が、みぞおちから右側腹部に腹痛を認める場合は胆石発作の可能性があります。典型例では、油ものを摂取して数時間以内に冷や汗を伴う強い激痛を自覚します。

7.膵炎

腹痛を訴えて病院受診したケースの約5%が急性膵炎と言われています。飲酒が契機となり発症することが多く、胆石が原因になることもあります。上腹部の激痛に嘔気・嘔吐、背部痛を高頻度に伴います。重症化した場合に致命率が高いため、早急に適切な処置を要します。

病院を受診する際の注意点

消化器疾患に限りませんが、腹痛で病院を受診する場合、以下の点は診断や治療を行う上でたいへん重要です。分かる範囲で診察医にお伝えください。

1.腹部手術の既往;これまでお腹の手術を受けたことがあるか。

2.持病;定期的に治療を受けている疾患や健康診断で異常を言われたことがあるか。

3.常用薬;サプリメントも含めて、常用している薬があるか。

4.腹痛の誘因;飲酒、食事、薬など腹痛が出現したきっかけがあるか。

5.食事内容;腹痛が出現した数日前までに生ものなどの摂取があるか。

6.集団発生;家族や同僚などに同様の症状の者はいないか。

受診後帰宅してからの注意点

上述のように、腹痛をきたす消化器疾患は多岐にわたります。夜間救急外来などでは十分な検査が実施できず、確定診断に至らないケースもあります。 医師の判断で投薬等の処置の後、帰宅して経過観察することになった場合でも、腹痛が増悪し、随伴症状が出現する兆候があれば受診した病院に早めに連絡して 下さい。

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