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知っておきたい“腹痛(おなかが痛い)”のポイント

目次

はじめに

「おなかが痛い」は、日常生活の中でよくみられる症状です。経過をみていれば自然に治るようなものから、緊急手術を必要とするような“急性腹症”と呼ばれるも のまで様々な病気が原因となります。そのため、「おなかが痛い(腹痛)」の診たては決して容易ではありません。アメリカの救急外来を受診して緊急入院と なった場合でも、最終的な診断がつかないまま治癒する患者さんは40%程度いるという報告もあるくらいです。このたび、身近なはずの「おなかが痛い」につ いて、いざという時に慌てないために知っておきたいポイントをまとめてみました。どうぞ、ゆっくりお読みください。



平成22年9月
広島大学病院 総合内科・総合診療科 教授  田 妻   進



腹痛をひき起こす疾患とは?
 

腹痛の原因となる病気は、お腹の中にある胃腸や肝臓などの内臓疾患以外でも、心臓、肺、腎臓、卵巣・子宮などの臓器の病気でもおこることがあります(表1)。また、緊急を要する腹痛をきたす病気を表2に示しておきますので、参考にしてみてください。

表1 臓器別の視点からみた病気

腹腔内臓器からの疼痛~消化器疾患~

・ 消化管(虫垂炎、消化性潰瘍、腹膜炎、腸閉塞、過敏性腸症候群、逆流性食道炎)

・ 肝胆膵(胆嚢炎、肝膿瘍、肝炎、急性膵炎、総胆管結石、胆石発作)

腹腔外臓器からの疼痛

・ 心臓・血管疾患(心筋梗塞、狭心症)

・ 塞栓症または血栓症(腸管膜動脈塞栓症、腎梗塞)

・ 血管破綻(大動脈瘤破裂、大動脈解離)

・ 呼吸器疾患(肺炎、胸膜炎、肺塞栓、気胸、食道穿孔)

・ 泌尿器疾患(尿管結石、腎盂腎炎、尿閉、精巣捻転)

・ 代謝性疾患(糖尿病性ケトアシドーシス、副腎不全、高カルシウム血症)

・ 婦人科疾患(子宮外妊娠破裂、骨盤内感染症、卵巣出血、卵巣捻転、月経痛など)

・ 筋骨格疾患(帯状疱疹、腹直筋外傷、椎間板ヘルニア)

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表2 緊急度別にみた腹痛をきたす疾患

1)1分1秒を争う緊急手術を要する

大動脈瘤破裂、腹腔内出血、子宮外妊娠などによるショック

(難治性血圧低下、冷感、ふらふら)

2)緊急処置を要するが、最小限の検査などをする余裕がある(数時間)

消化管穿孔・破裂、急性虫垂炎、腸重積、腸間膜血管閉塞症、急性化膿性胆管炎

3)手術、侵襲的治療の可能性はあるが、詳しい検査をする余裕がある(数日間)

急性膵炎、急性胆嚢炎、肝膿瘍、腸閉塞、大腸憩室炎

4)内科的治療

消化性潰瘍、炎症性腸疾患

腎盂腎炎、Fitz-Hugh-Curtis 症候群、感染性腸炎



腹痛の診断に必要な情報とは?(症状のはじまり、うつり変わり)
腹痛の原因を調べるときに血液検査やエコーなどの画像検査も重要なのですが、症状の経過も診断に必要な情報となります。とくに「痛み」の発症様 式、時間経過は大切なポイントです。特に、数秒から数分間でピークに達するような突然の痛みは、消化管、胆管、血管などが閉塞したり、破裂したり、捻じれ て生じることがあります。

医療機関受診の際には、以下のポイントについて説明できるようにしておきましょう。危険な徴候としては、(1)突然発症で最悪の痛み、(2)増悪 していく痛み、(3)夜眠れない痛み、(4)歩くとき響く痛み、(5)食事がとれない痛み、(6)嘔吐や発熱が続くなどの項目に該当するようでしたら、医 療機関を受診することを考えてみてください。

表3 「おなかが痛い」のポイント

お腹はいつから痛いのか

痛みは突然痛くなったのか? (どれくらいの時間で悪くなったか)

痛みは繰り返すのか?

時間経過はどうか

痛みは徐々に増悪しているか?

持続時間はどれくらいか?

痛みのピークはいつか?

痛みはどんな痛みか

・ 絞るような痛みか

・ 持続的な痛みか

・ 波のように繰り返す痛みか

痛みが増悪する・和らぐことは

・ 食後に悪化する    → 胃潰瘍、膵炎、胆石発作

・ 食後に楽になる    → 十二指腸潰瘍、胃食道逆流症

・ 歩行や体動で悪化する → 腹膜炎

・ 深呼吸で悪化する   → 胸膜炎、肺炎、肋骨骨折、肝周囲炎

・ 臥位で悪化する    → 胃食道逆流症、脊髄圧迫

腹痛以外の症状は

・ 発熱はどうか

・ 吐き気、嘔吐は

・ 食欲はどうか、水分はとれるか

・ 排便はあるか  血便、黒色便、便秘、下痢

・ 排尿はどうか  頻尿、排尿時痛、血尿、尿の量は

・ 睡眠はどうか

・ 帯下・不整出血の有無(女性)

手術したことがあるか  今まで入院したことは

アレルギーの有無

現在服用している薬剤・健康食品

月経歴、妊娠の有無

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腹痛の原因を調べる検査とは?
 

尿検査:尿量、尿の色(血尿、ビールのような褐色尿)、尿糖

便検査:便潜血、血便、培養(細菌性腸炎疑いのとき)

末梢血検査:白血球数、赤血球数、血小板数

血液生化学検査:肝機能、腎機能、アミラーゼ、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)

心電図:心筋梗塞、狭心症

単純X線検査:腸管のガスの分布、臓器腫大、骨の異常

超音波検査:すぐに実施可能であり、胆石などの胆道系疾患、腹部大動脈瘤、腹水の有無などの診断に有用です。

CT検査:単純X線検査や超音波検査に比べ、所見の客観性に優れ、骨・腸管ガスの影響を受けることが少ない検査である。消化管穿孔や血管性病変の診断に、CT検査は重要な役割をもち、第一選択で実施されることもある。

上部・下部消化管内視鏡検査:消化性潰瘍、消化管の悪性腫瘍

以上、腹痛を訴える患者さんには、これらの検査を必要に応じて系統的に実施されます。お腹が急に痛くなったような腹痛では、精密検査をしても原因が確定できないこともあり、慎重に経過をみていくことが必要なこともあります。


臓器の視点からみた疾患と腹痛のかかわりは?
表1に示された各臓器の病気が腹痛とどのようにかかわるのか、主なものから説明していきましょう。頻度としては、消化器疾患、婦人科疾患が多く、次いで、心・血管・呼吸器疾患、泌尿器科疾患と続きます。また糖尿病に伴うこともあります。

 

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