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家庭で知っておきたい耳鼻咽喉科の救急

目次

第2章 家庭でできる応急対応

以下に示す症状や病態については、家庭での対応により夜間の緊急受診を避けられることがあります。ただし、対応についてや病状について少しでも心配があるようでしたら、まず電話などでの問い合わせを行ってみてください。

(1)外耳炎、中耳炎による耳の痛み

夜間に突然生じる耳の痛みは、大人であってもがまんすることは難しく、ましてや乳幼児では泣くこと以外にできないため、親も困ってしまうことがあります。ただ、もともと元気であった子ども(乳幼児)が、急に生じる耳痛については、ほとんどの場合が急性中耳炎によるものです。急性中耳炎(い わゆる中耳炎)の病状によっては、中耳に貯まった膿汁を鼓膜切開(手術)により排膿することで鼓膜にかかる圧力を減じて、痛みの軽減をはかれることもあり ます。また、排膿して細菌の量を減らすことは薬剤の効果を高め、その後の治療によいこともわかっています。ただ、中耳炎の病期(病状の時期)により、炎症 の初期で膿汁があまり中耳に貯留していない時期ではこの方法では効果が少ないこともあります。また、排膿処置では炎症自体をすぐになくしてしまうことはで きないため、手術的な処置を行うことが難しい夜間の救急では、たちまちの痛みを軽減するためには、いわゆる痛み止め(解熱鎮痛剤とよばれる薬剤)を使用す ることで対応します。解熱鎮痛剤は炎症を緩和して発熱を抑え、痛みをとる作用の薬剤ですが、発熱のない痛みだけの場合にも使用は可能です。このため、子ど もさんが夜間に急な耳痛を訴えられるようなときは当座の対応としてお手持ちに解熱鎮痛剤(子どもさんの使用の可能なもの)があれば、それを使用することで 苦痛をとってあげることができます。急に生じた耳痛の原因としては、大人の場合は急性中耳炎の他に急性外耳炎に よる痛みのこともあります。もともと耳をよくつつく(耳掃除をこまめにやりすぎる)タイプの人が外耳道の皮膚を傷つけて感染を生じることで発症するもので すので、痛みをきたすようになる前に耳掃除を行った心当たりがあることがほとんどのようです。この場合もたちまちの痛みを緩和する目的で使用可能な痛み止 め(解熱鎮痛剤)を使用されて、翌日に耳鼻咽喉科への受診を行われることで夜間の対処が可能になります。

同様に感冒時の鼻炎による鼻の痛みや、咽頭痛に対しても痛み止めの使用で痛みの緩和をはかることは可能ですが、咽頭痛につきましては、呼吸や飲み 込みに対しての症状が強いもの(特に痛み止めを飲んでも食事が食べにくい程度のものなど)は、救急受診を考慮する必要があります。

(2)虫による外耳道異物

耳に異物が入り込む異物症のほとんどは痛みの程度が強くないため、そのままにして翌日の耳鼻科受診で問題ないことがほとんどなのですが、特殊な状 況の外耳道異物に虫などの迷入によるものがあります。虫が外耳道の奥を動くことで鼓膜などに接触して強い痛みを生じます。痛みの程度が強く、虫が動く間痛 みが続くため救急受診を必要とする耳痛の1つになります。

まず、虫が自分から出ていってもらえるようにするのですが、虫の入り込んだ側の耳を塞がずに上にしてみます。

この方法のみで出てきてくれないときは、次に懐中電灯などの明かりで耳の中を照らしてみるのですが、虫の種類によっては明かりで照らすと自分から 出てくるものと逆に暗がりに逃げ込んで出てこなくなるものがあります。出てきてくれないときは耳の中に何かの液体を入れて、流し出すことを考えます。

家庭内で一番はじめに思いつくのは、「水(水道水)」だと思います。ただし、「水」を使用した場合では、虫の体毛により水をはじき、体に空気の泡 をつけたりするとなかなか死んだり弱体化せず、上手く出てこないことも多いようです。また、水はその温度が体温(約37度)とあまりにかけ離れていると、 内耳の温度刺激により、回転性のめまいを生じてしまうことがあります。(温度刺激による正常な内耳の反応です。)

経験的に家庭にあるものでもっとも安全に使用できると考えられるものは、食用の油類です。使用する油はサラダ油でもオリーブ油でもかまいません。 油はいくつかの点で生物異物に対して有効と考えられます。1つは使用した人体には無害であること。(油はマッサージなどで体に塗っても安全ですので)生物 により外耳道の皮膚や鼓膜が損傷していた場合でも、炎症をひきおこしたりするような副作用はほとんど起こらないと考えられます。もう1つは油が異物を包み 込むため特に昆虫異物については虫を窒息させてしまうことです。また、油により、虫のかぎ爪なども皮膚からすべり、油に浮いて出てきてしまうこともありま す。

よくみられる生物異物としてはゴキブリ、蛾、コガネムシ、ムカデなどがあります。(図16)

医療機関では生物を殺したり、動きを弱らせるため、麻酔剤のスプレーなどで生物を弱らせてから摘出します。

虫による外耳道異物の例(コガネムシ)

(3)鼻出血

鼻出血ではその8から9割が鼻前部(特に鼻中隔の前端の小さな血管が多く集まっているところ=キーゼルバッハ部位と呼ばれています。)の粘膜損傷 から出血していることが多いようです。(図17)ほとんどが直接的に鼻の粘膜をこすったり(鼻をかむときにこすったり、指でほじったり)することで損傷す ると考えられますが、小さな傷ではこすってすぐに出血するのではなく、しばらくして次に鼻をかんだときなどに出血し始めたりするため、原因がはっきりしな いこともあります。(図18)

一般的には以下に示す止血の方法をきちんと行うと止血できることがほとんどです。

鼻出血のよくおこる場所と圧迫する場所 幼児の右鼻出血

正しい止血法

(i)まず出血部位の圧迫を行うため、鼻翼(ふくらんだ小鼻の部位)をできるだけ広く親指と人差し指でつまむように圧迫します。(図19)このとき鼻内にティッシュや綿球などは必ずしも入れる必要はありません。(後で除けるときに再出血をしやすいため)

しっかり前鼻孔(鼻の前の穴)がふさがれると、状態によっては後鼻孔(鼻の後ろで咽頭へ開 いている穴)から咽頭へ血液がたれ込んでくることがあります。咽頭へ流れ込んだ血液を飲み込んでいると、胃内にたまった血液が胃酸で黒く固まり、腹部を刺 激して気分が悪くなって嘔吐してしまうことがあります。嘔吐により血圧が上昇したり、吐物が後鼻孔から鼻内に逆流すると、更に止血困難となりますので、咽 頭へ流入した血液は飲み込まずに口腔から喀出することが大事です。

鼻翼の圧迫による止血方法(座位)

(ii)姿勢としては基本的に座位(座った状態)でやや前にうつむいた姿勢とします。気分不良で座位が保てない場合は頭部をやや挙上した側臥位(どちらか横向けに寝る)とし、咽頭へ流れ込んだ血液を口腔から出しやすくします。(図20)

このような状態で圧迫により鼻内の傷がしっかり押さえつけられれば、通常は10~15分の圧迫でいったんは止血されることが多いようです。

上述した方法で15分以上たっても止血できない場合は家庭での止血操作は困難ですので、救急受診での耳鼻科専門医の診療と止血が必要となります。

鼻翼の圧迫による止血方法(外臥位)

よく行われている間違った止血方法としては以下のようなものがあります。

間違った止血法

×(1)眼と眼の間の高い部位(鼻根部)をつまむ。(図21)

固い鼻骨があるため鼻内に圧迫が伝わらず、傷を押さえつけられない。

間違った止血の部位と姿勢(座位)

×(2)首の後ろをとんとんたたく。首の後ろを冷やす。

出血部位への直接的な効果、影響がない。

×(3)鼻をかむ。

傷を固めた凝血塊がはずれてしまいなかなか止血されません。もし、この方法で偶然止血した経験がおありになる方は、鼻をかむときに鼻を押さえることで、出血部位を圧迫することができたのかもしれません。

×(4)鼻を押さえずに、できってしまうまで洗面台などに出血をたらす。

小さな傷の場合は固まってくる血液で止血されることもありますが、大きな傷ではなかなか止血しないと考えます。

×(5)仰臥位になり、血液はずっと飲み込む。

固まって血管をふさぐ べき血液が咽頭へ流れてしまうため、なかなか止血しません。また、咽頭へ流れた血液の固まりでのどが詰まって窒息の危険もあります。血液を嚥下している と、後で気分が悪くなり嘔吐しやすくなります。嘔吐すると血圧が上がって、更に止血が難しくなります。


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