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家庭で知っておきたい スポーツ傷害

目次

下肢の傷害

骨盤・股関節の傷害
1)疲労骨折
恥骨下枝・坐骨疲労骨折
大腿骨頚部疲労骨折
2)剥離骨折
上・下前腸骨棘剥離骨折
坐骨剥離骨折
3)恥骨結合炎
4)鼡径ヘルニア


1)疲労骨折
a)恥骨下枝・坐骨疲労骨折
長時間のランニングを要するスポーツやマラソンなどによる骨盤への繰り返しのストレスにより生じます。また、骨粗髭症などにより骨が脆くなったり、肥満 による過度の体重負荷がかかったりする場合に生じやすくなるとも言われています。骨折の起こりやすい部位は前方の恥骨・坐骨あるいは仙骨であり、鼡径部 (脚の付け根)・大腿部前面・殿部・腰部などに痛みが生じます。
診断には、X線の場合痛くなり始めてから2~3週までは異常が見つからないことが多く、早期の診断には骨シンチグラフィーやMRIが有効です。治療としては骨折が治癒するまで運動を制限する必要があります。

b)大腿骨至頁部疲労骨折
ランニング、トライアスロン、エアロビツクダンスなど骨盤の疲労骨折と同様に繰り返しのストレスが加わったり、骨粗髭症を有する人などに多く生じます。大腿部前面・股関節の痛みが生じることが多く、症状のある側の脚でジャンプすると痛みが誘発されます。
診断・治療法は骨盤の疲労骨折と同様ですが、大腿骨頸部の骨折型によっては手術的治療を必要とする場合があります。

2)剥離骨折
a)上・下前腸骨鰊剥離骨折
サッカーなどのボールを蹴る運動や陸上競技のスタートダッシュなどにより、強力な筋が骨盤前方の付着部で骨が牽引されて生じます。縫工筋の牽引により上前腸骨棘が、大腿直筋の牽引により下前腸骨棘が損傷されます。
診断にはX線・CT検査が有効であり、治療としては一般的に保存療法が行われます。各々の原因となる筋がゆるむ肢位で2~3週間の安静により治癒することが多いですが、骨片の大きい場合や早期の社会復帰を要する場合には手術的に骨片を整復固定することがあります。

b)坐骨剥離骨折
坐骨結節部に付着するハムストリング筋の牽引により生じます。診断・治療法は上・下前腸骨頼剥離骨折と同様です。
疲労骨折・剥離骨折の好発部位

3)恥骨結合炎
サッカー、ラグビー、アイスホッケーなどのスポーツにおける股関節内転筋のオーバーユースと考えられています。恥骨部や下腹部の痛みや圧痛が生じ、脚を聞きにくくなります。

診断は痛くなり始めて3~4週後のX線で恥骨結合部の変化を認めることが多いです。治療としてはスポーツ選手では4~6週間の運動制限を行い、安静と抗炎症剤の内服などが行われます。

4)鼡径ヘルニア
サッカーなどのキック動作やジャンプ着地動作により股関節周囲に強い負荷がかかり、また腹圧の上昇も関与して鼡径部の筋膜・腱膜が弱くなるため、腹圧が かかるとこの部分が膨隆して生じると考えられています。鼡径部や大腿部の内側に痛みが生じることが多く、くしゃみや階段昇降で痛みが誘発されることもあり ます。

治療としては症状の程度が軽ければ安静や抗炎症剤の内服などが行われることが多く、股関節周囲筋のストレッチなどが大切です。また、3カ月以上経っても 軽快せずスポーツが行えないような場合には、鼡径部の筋膜を補強・修復する手術が選択されることがあります。
骨盤・股関節周囲の疼病部位

股関節の傷害
膝は骨の周囲を靭帯、半月板や関節包といった組織が周囲をがっちりと固めた関節です。しかし、その骨格構造が非常に不安定であることや、人体最大の筋肉 である大腿四頭筋が膝蓋骨を経由してその強大な収縮力を脛骨に伝えていることにより、膝はスポーツによる外傷、障害の好発部位となっています。

靭帯損傷
関節を構成する2つ以上の骨をつなぐすじ状の線維性結合組織のことを靭帯と呼びます。膝の外ぶれ(外反)、内ぶれ(内反)を制限する側副靭帯と、前後の 動きを制限する十字靭帯とに大別されます。これらの靭帯への過剰なストレスが、瞬時に起きると執帯損傷が発生します。損傷された靭帯の種類や程度によって 差はありますが、いったん靭帯損傷を生じると、特に十字靭帯では完全修復されない場合が多く、結果として不安定な関節が後遺症として残ります。不安定な膝 は結果的に関節の他の組織(軟骨、半月板など)の損傷を引き起こし、二次的な変形性膝関節症をまねきます。
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内側副靭帯損傷
内側側副靭帯は膝の内側に位置し、膝を過度に外反したときに損傷する靭帯です(図1)。
図1 内側側副靭帯損傷
膝の靭帯損傷の内、8割以上の発生頻度を有するとも言われ、膝の靭帯損傷の中では、最も多く遭遇する症例です。ケガの程度は靭帯の損傷の程度に応じて1度(軽症)から3度(重症)まであります。

外側側副靭帯損傷は膝の外側を補強する靭帯で膝の内反動揺を防ぐ役割があります。外傷性の外側側副靭帯損傷は、単独靭帯損傷としてはほとんど生じず、十 字靭帯損傷に合併して起こります。言い換えれば、十字靭帯損傷を受傷された方に外側側副執帯損傷を合併していることで発見されることが多い損傷です。原因 としては、主に膝の過度の内反が作用したときに発生します。

内側側副靭帯損傷では、膝の内側が痛み、膝を完全に伸ばすことも困難になります。完全断裂の重症(3度)ではひざがぐらぐらと不安定になります。また、 体表に近い靭帯なので腫れも目立ち、数日経ってから出血することもあります。何も治療せずにほうっておいても痛みや腫れは一定期間で無くなり、軽症例では ほとんど何も問題なく治癒しますが、重症例では関節のぐらぐらとした感じが残る場合があるようです。

側副靭帯損傷だけで、手術を行うことはまれですが、後述する十字靭帯損傷を合併することが多く、やはりきちんとした診断を整形外科で受けたほうが良いでしょう。

前十字靭帯損傷
膝関節内に存在する十字靭帯は、膝関節の前方動揺(大腿骨に対して脛骨が前方に動揺する)を防ぐ前十字靭帯と、後方動揺(大腿骨に対して脛骨が後方に動 揺する)を防ぐ後十字靭帯の2つからなり、お互いの走行が関節内で十字に交差しているためにその名称がついています。またこの2つの執帯により膝の回旋運 動も制御されています。この執帯が損傷されると膝関節の安定性が著しく損なわれ、関節が必要以上にずれる感じになります。

特に前十字靭帯損傷は発生頻度も高く、非接触型損傷(人とぶつかったわけではなく、膝を捻っただけで切れる)がそのほとんどを占めます。逆に後十字靭帯 損傷はサッカー、ラグビーなどの接触型のスポーツで損傷され、そのほとんどが脛骨の前面が地面や相手にぶつかることで損傷します(図2)。
図2 前十字靭帯損傷
一般的には急性期(損傷後2~3週間)においては、痛みの程度や膝の腫れの程度に応じてギプスなどによる安静国定や、膝の軟性装具を用いた装具療法が行 われたりします。前十字靭帯損傷に対しては、活動性の低い女性の方や、手術希望のない方を除き、手術療法が一般的に行われます。専門医で治療を受けること が大切です。

半月板損傷
半月板とは、大腿骨と脛骨との問にある半月状(実際には三日月の様な形)の線維性軟骨で、内側と外側にそれぞれ1つずつ、計2つあります。関節の衝撃緩衝作用を持ち、関節適合性や安定化を担う大切な組織です。

半月板損傷は、靭帯損傷発生時の過剰な衝撃や必要以上のねじれによって、半月板が割れるように亀裂が生じたり、ねじ切れるように裂けたりします。また、特殊な姿勢を繰り返し行い、半月板の変性断裂を起こす場合もあります(図3)。
図3 内側半月板損傷
半月板は血行に乏しく、一度損傷されると自然修復される可能性が非常に低いことが知られています。その主な症状は痛みですが、損傷の程度によっては嵌頓 (膝に物がはさまった感じがあり、曲げ伸ばしが難しくなる状態)症状を呈することがあります。半月板の損傷部分が関節内にはさまるために生じるもので、大 腿骨や脛骨の関節軟骨面を傷つけ、関節内の炎症を引き起こす原因となります。

半月板の機能を出来るだけ温存するためにも、内視鏡を使用して損傷された半月板を出来るだけ修復するような半月板縫合術が行われます。

しかし半月板そのものに血行が乏しく修復能力が低いことや、変性の強い症例には半月板部分切除術を余儀なくされる場合もあります。

膝蓋骨脱臼、亜脱臼
膝蓋骨(ひざの皿の骨)が外側にはずれかかる、又は完全にはずれてしまうものです。ジャンプの着地やバスケットボールのピボット動作時などに発生しま す。関節が軟らかい、膝蓋骨の位置が通常よりも高いなどの先天的な素因に、スポーツ動作が加わって発症するものと考えられています。

膝ががくっと崩れるような感覚が走り、強い痛みがあります。初回脱臼の場合、膝が腫れ、関節の中に血が溜まります(関節内血腫)。膝蓋骨が外側へ容易に移動するため、強い脱臼への不安感があります。

膝が屈曲して、膝蓋骨が外に脱臼したままの状態である場合、膝をゆっくりと伸ばしていくだけで元に戻ることがあります。整復の有無に関わらず現場では必 ず冷却と固定を行った上、専門医の診断を受けるようにして下さい。治療はギプスによる安静と国定を行います。骨折がある場合や、亜脱臼が残存し脱臼感の改 善が見込めない場合には、手術的治療が必要なことがあります。
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足関節・足部の傷害
足部はスポーツ外傷の好発部位の1つで、ここでは、スポーツ活動中によくみられる足関節捻挫とアキレス腱断裂について述べます。

1.足関節捻挫
足関節捻挫は日常よく遭遇する外傷で、特にスポーツ活動中によくみられます。捻挫とは、関節に力が加わり、関節の正常の運動範囲を超える動きが強制され た際に、関節周囲の靭帯、関節包などが損傷することです。足関節捻挫のほとんどが内反捻挫であり、これにより、外側部の靭帯損傷が多くみられます。靭帯の 損傷の程度は、靭帯線維の小損傷、靭帯の部分断裂、靭帯の完全断裂に分けられます。外側の靭帯である前距緋靭帯、踵月非靭帯(図1)の完全断裂は足関節の 前方・外側への不安定性をまねくため、初期に適切に治療しないと不安定性が残存し、捻挫を繰り返しやすくなることがあります。また、将来的に変形性足関節 症へと進行することもあります。
図1 捻挫で損傷しやすい靭帯
1)症状
足関節の腫れ、疼痛が生じます。特に外側の靭帯損傷であれば、外果周辺に疼痛、腫れ、皮下出血が生じます。時に腓骨外果の剥離骨折を認めることもあり、レントゲン撮影は重要な検査です。また、ストレスレントゲン撮影(図2)により、靭帯損傷の程度を調べます。
図2 ストレス撮影
2)治療
受傷後はできるだけ早くRICE療法を行います。R(rest)は安静、l(icing)は冷却、C(compression)は圧迫、 E(elevation)は挙上で、これらを速やかに行うことにより、疼痛、腫れが軽減します。その後、靭帯損傷の程度が軽ければ、1~2週間のテーピン グ、弾性包帯、サポーターによる固定を行います。重度の靭帯損傷であれば、シーネ固定を行います。

2.アキレス腱断裂
スポーツ活動中に生じることが多く、下腿三頭筋に急激な収縮力が加わることによりアキレス腱が断裂します。40歳前後に多く発生し、近年女性に増加傾向 があります。ダッシュおよびジャンプ時に発生することが多く、「後ろから蹴られた」、「棒でアキレス腱を殴られた」というような衝撃を感じたり、「プ チッ」、「バチッ」という音がすることがあります。

1)症状
アキレス腱部に激痛が出現し、歩行困難となります。アキレス腱の断裂部に陥凹が生じ、自分の力で底屈が不可能になり、つま先立ちができなくなります。
アキレス腱断裂(矢印:腱断裂部)
2)治療
ギプス・装具による保存的治療か、手術による治療が行われます。保存的治療では、長期間ギプス固定が必要です。手術的治療では、ギプス固定期間が短く、再発率が少ない利点がありますが、入院を要するといった欠点もあります。


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