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肺の救急 -疾患の知識と救急処置-

目次

III.救急処置を必要とする呼吸器症状と疾患

III-1 呼吸停止

呼吸をしていない状態であり、いうまでもなく直ちに応急手当が必要です。呼吸状態は、(1)胸や腹が動いているかどうか、(2)口や鼻に耳を近づけて呼 吸音がきこえるかどうか、(3)口や鼻に頬を近づけて息を感じるかどうか、で判断します(図1)。さらに意識が無く、唇や爪の色が紫に変色(チアノーゼ: 後述)しているときは呼吸停止状態にあることはまず間違いなく、すぐに口の中を調べて人工呼吸(後述)を行います。



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図1 呼吸状態の判断


III-2 チアノーゼ

皮膚の色が紫色(暗紫赤色)となっているときにチアノーゼといい、唇、耳だ、鼻尖、頬などによく認められます。血液の赤血球中のヘモグロビンという蛋白 質は、酸素と結合して全身に酸素を供給しますが、酸素と結合していないヘモグロビンが血液1デシリットル中に5グラム以上あればチアノーゼを呈します。呼 吸器の異常でチアノーゼがあれば重症ということを意味しますが、貧血があれば重症呼吸器疾患でもチアノーゼになりにくいので注意が必要です。

III-3 呼吸困難(息切れ)

呼吸困難とはあくまで本人の自覚的な息苦しさの訴えであるため、必ずしも客観的な呼吸不全(低酸素血症など)と一致するとは限りません。また呼吸困難は 呼吸器疾患のみならず、循環器疾患や貧血などでも起こります。いずれにしろ呼吸困難の訴えがあるときは、意識や呼吸の状態、チアノーゼ、喘鳴、胸痛、喀血 などの随伴症状の有無が重症度の判定に重要です。意識・呼吸の異常や随伴症状があれば致命的な病態のことがあり一刻を争います。呼吸困難がひどくなると起 座呼吸(苦しくて横になれず、座位をとる)となります。
突然あるいは急激におこる呼吸困難としては窒息があります。元気であった人が突然話すこともせき込むこともできなくなり、手でのどをつかんだり、前胸部を叩くしぐさをしたときは後述する気遣異物による窒息を考えます。
普段から慢性の息切れがある人が感染などで増悪し、呼吸困難が悪化して意識混濁することもあります。

III-4 血痰・喀血

喀血とは気管・気管支・肺からの出血で、咳をしたときに口から鮮紅色の血液を吐き出し、泡を含んでいることが特徴です。血疾は痰の中に少量の血液が混 ざったものです。(一方、消化器からの出血は吐血といい、吐くような動作と共におこります。)呼吸器の病気では血痰・喀血の原因は肺結核や気管支拡張症な ど肺の炎症性疾患が多いのですが、大なり小なり組織破壊性の病変が呼吸器管の血管に波及したことを示します。大量に喀血すれば血圧低下などショック症状を 呈することがありますが、少量喀血でも気遣に血液がたまり、呼吸困難になることがあります。また、心臓の悪い人では呼吸困難の訴えとともに薄く血が混じっ てピンクの泡状になった痰がでることがあります。

III-5 胸痛

胸の痛みには様々な症状のなかでも命に関わる病気がもっとも多く含まれています。呼吸器系、循環器系、消化器系、心因性など様々な原因がありますが、呼 吸器系の疾患では後述する肺梗塞、自然気胸や胸膜炎などがあります。呼吸状態や意識の異常、チアノーゼや血痰、大量の泡状桃色やさび色の痰がある場合は特 に緊急を要します。

III-6 喘鳴

喉頭、気管に狭窄があるために生じるゼーゼー、ヒューヒューという異常な呼吸音です。喘鳴の原因には、喉頭や気管の炎症、浮腫、腫瘍や異物、瘢痕、両側 半回神経麻痺、気管支喘息があります。激しいアレルギーや蕁麻疹に伴って喉頭が腫れる喉頭浮腫は、吸気時の呼吸困難や喘鳴を呈します。気管支喘息は気道が 様々な刺激に対して過敏性を持つひとが罹りやすい病気で、アレルゲン、感染、冷気や運動負荷などによる気道刺激により気管支が狭窄します。主症状は喘鳴を 伴う呼吸困難発作で繰り返しおこります。重症かどうかの判定には横になれるか、会話ができるか、動作がふつうにできるかなどが参考になりますが、チアノー ゼの有無や意識状態も重要な視点になります。重症の場合はためらわずに救急車を呼んで下さい。自分の車では運ばないようにしましょう。酸素吸入器のある救 急車のほうが途中で死亡する危険性が少ないからです。

III-7 過換気症候群

精神的・身体的ストレスを誘因として起こる発作性の呼吸困難です。特に若い女性に多く男子の2倍以上です。突発的に不必要な過剰呼吸を繰り返し、過剰呼 吸にもかかわらず息がうまく吸えない、空気が肺へ入らないなどと表現することが多いのですが、チアノーゼは見られません。血液がアルカリ性になるため、唇 のしびれ感、手指の引きつりなどの身体症状を呈します。さらにこれらの症状が不安感を助長して過剰な換気を引き起こすという悪循環を生じさせます。息こら えや紙袋内への反復呼吸(図2)で症状は改善します。

 



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図2 ペーパーバッグ法

III-8 気道異物

幼児や咽頭、喉頭機能の低下した意識障害者、身障者、脳血管障害者、薬剤中毒者などに起きやすいが、健常な人にも主として固形物の摂取に際して起こりま す。速く食べすぎたり、しゃべりながら食べたり、酪酊状態であったりすることが多いようです。幼児ではピーナッツなどの豆類やプラスチック玩具、成人では 固形食物の他に釘、画鋲、歯科関連異物が多く、老人では餅にも注意が必要です。
無症状から呼吸停止まで重症度は様々ですが、突然息が出来なくなり苦しむ、激しくせき込む、唇にチアノーゼがでる、ぐったりする、ヒュウヒュウと音がする(喘鳴)等の症状が出ると気道内の異物が疑われます。

III-9 自然気胸

青年期の痩せ型の人(男性が女性の10倍くらい多い)に特に原因がなく突然に胸痛、呼吸困難がおこるもので、最近非常に増えている病気です。肺の表面に穴 があき、そこから胸の中に空気が漏れだして肺を圧迫するため肺が縮みます。肺の表面から漏れ出す空気の量が多くなると片方の肺がすっかり縮んでしまうだけ でなく、反対側に圧迫されて心臓や血管もおされて緊張性気胸という大変危険な状態になります(図3)。なにも原因がなく、突然に胸痛、息苦しさが若い人に (特に痩せ型の男性)現れたらこの病気の可能性があるため、直ちにレントゲン写真の撮れる医院や病院を受診して下さい。



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気胸の一種である。肺が破れた箇所が一方向弁状になっていると、空気は漏れる一方となり、次第に胸腔内圧が上昇し、やがて健側の肺や心・大血管を圧迫して重篤な呼吸・循環障害を引き起こす。ショックから死に至ることも稀ではない。
これに対して、蘇生のために加圧人工呼吸をすると、ますます空気が漏れて症状を増悪させる。救命のためには緊急の胸腔ドレナージが必要である

(救急救命士標準テキストより)
図3 緊張性気胸

 

III-10 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

ARDSとは acute respiratory distress syndrome の頭文字をとったものです。もともと肺の病気をもっていなかった人が、交通事故や大手術を受けてのち1から3日後に肺胞の中に水分が貯留する肺水腫という 状態が出現することがあり、治療に抵抗して進行性で、生命の危険が高い状態です。この状態は原因が単一ではなく複合的な要因が重なって生じている可能性が 高く、その本態は血管の中の水分が血管外へ漏れ出やすくなっていることと推定されています。入院中に発症することが多いので皆さんが家庭や社会で遭遇する ことは少ないかも知れません。

III-11 一酸化炭素(CO)中毒

一酸化炭素(CO)中毒は、火災時のガス中毒をはじめとして、家庭用ガスや自動車の排気ガスによるもの、石油ストーブや炭、練炭の不完全燃焼によるものなどを含みます。
肺から取り込まれた酸素は血液中のヘモグロビン(Hb)と結合して運搬されますが、COが存在するとHbは酸素よりもCOと結合しやすくCO-Hbの濃度が高くなり、頭痛、耳鳴り、めまい、嘔吐、意識障害などを生じます。
応急処置としては、患者を風通しのよいところへ移し衣服をゆるめ呼吸がしやすいようにします。この際、家庭での事故であれば引火による二次災害を避ける ため、息を止めて入りガスの元栓を閉めて窓を開け放つことが大事です。また、皮膚が鮮紅色になることも特徴のひとつで、呼吸が弱く、顔が赤く、意識がない 場合はすぐに救急車を呼ぶ必要があります。

III-12 溺水

溺水は発生機序によって4つに分類されます(表1)。また淡水と海水、冷水と温水によって病態が異なります。淡水を気道内に吸引した場合浸透圧により溶 血がおこります。海水の場合は、逆に血中から水分が肺に出てきて肺水腫をおこします。冷水の場合は(3)の immersion syndrome が起こりやすく、超冷水の場合は低体温となるため長時間の心肺停止状態でも蘇生可能なことがあります。
溺れている人をみつけたら、すぐに人を呼び協力を求めます。意識があり呼吸も保たれているときは、保温、嘔吐に気をつけて病院へ運びます。意識がなく心肺停止の場合は、口腔内の異物を除き仰向けに寝かせ心肺蘇生を行います。

 

表1:溺水の発生機序による分類
(1)wet drowning(湿性溺水) 液体が肺胞内に入り、窒息を起こす型で、頬度が高い。
(2)dry drowning(乾性溺水) 液体の刺激により反射的に喉頭けいれん、気管支けいれんを起こすもの。肺内に水分は認められない。
(3)immersion syndrome 冷水に浸った瞬間に副交感神経反射により心停止を起こすもの。
(4)secondary drowning(二次溺水) 一時的に症状が軽快しても数日後肺水腫、肺炎にて悪化するもの。
(救急マニュアルより)

 

III-13 慢性呼吸不全の増悪

ここでは主として慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎/肺気腫)の急性増悪について述べます。増悪の引き金となるものとしては、肺炎などの感染症、睡眠薬の 使いすぎ、低栄養、気胸、などが挙げられます。この病態の特徴として低酸素血症とともに高炭酸ガス血症が存在することがあり、酸素投与には注意が必要で す。つまり、高炭酸ガス血症が存在する場合、大量の酸素投与は、かえって呼吸を抑制することがあるからです。何れにせよ、慢性の呼吸不全がある人が、呼吸 困難、意識障害、喘鳴、興奮、せん妄などを生じた場合は病院での救急処置を要する場合が多いと考えておくべきでしょう。

III-14 肺塞栓症

全身の静脈から戻ってきた血液は、心臓から肺へ送り出されますが、この時、静脈血中に血栓や脂肪塊、腫瘍細胞の塊などが存在するとそれが肺血管に詰まり 循環障害を起こします。肺塞栓の大部分は肺血栓でその多くは下肢の深部静脈にできた血栓が剥がれて生じたものです。太い血管が閉塞した場合ショックから急 性死にいたることもあります。この病気を起こしやすい因子としては、長期の臥床、骨盤や下肢の外傷、手術、妊娠、悪性腫瘍、心房細動、肥満、経口避妊薬の 服用などが知られています。症状としては突然の胸痛や呼吸困難、血痰、頻脈、多呼吸などがみられ血管の閉塞の程度により差があります。
致死率の高い病気なので救急施設での治療を要することが多いと思われます。

 

III-2 チアノーゼ




皮膚の色が紫色(暗紫赤色)となっているときにチアノーゼといい、唇、耳 だ、鼻尖、頬などによく認められます。血液の赤血球中のヘモグロビンという蛋白質は、酸素と結合して全身に酸素を供給しますが、酸素と結合していないヘモ グロビンが血液1デシリットル中に5グラム以上あればチアノーゼを呈します。呼吸器の異常でチアノーゼがあれば重症ということを意味しますが、貧血があれ ば重症呼吸器疾患でもチアノーゼになりにくいので注意が必要です。

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