禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

新型コロナと喫煙

医療法人たちばな会 斉藤内科医院
齋藤 敏史

 掲載のタイミングによっては、やや旬を過ぎているかも知れないが、現時点(2020.5.31)では避けて通れない話題である。4月22日付、中国新聞くらし欄の津谷先生の玉稿が明快に論旨を示している。以下に一部を紹介する。
 日本禁煙学会は、喫煙と重症化リスクに関する二つの論文を分析し、喫煙が症状を悪化させる大きな要因であることが分かったという。一つ目は中国国内の患者1,099人のデータで、喫煙経験者では非喫煙者に比べて、重症化リスクは約1.7倍、死亡リスクは約3.2倍だったという。武漢での入院患者78人の症例を分析したもう一つの論文でも、悪化するリスクが約14倍であり、高齢のリスク約8.5倍をも大きく上回っていたという。
 喫煙により、肺機能や免疫能が低下し、ベースにCOPDが多いことも、肺炎を起こしやすく症状が急激に悪化しやすい一因と思われる。
 また、4月施行の改正健康増進法により、たばこを吸える場所が少なくなったこともあり、これまで以上に喫煙者が一か所に集まりやすくなり「3密状態」となりクラスターの発生源となりうる可能性もある。喫煙所のドアノブに触れた手でたばこを口に持っていく動作や、息を深く吸い込むことで、ウイルスの侵入リスクを高めていることも考えられる。
 以下はまた、別出典であるが、新型コロナウイルスと心血管障害に関しての報告も多い。ニコチンとその受容体(a7-nAChR)が細胞へのウイルス侵入を促進し、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを上げるのではないかという仮説も出ている。ヒトの細胞に広汎に存在する酵素ACE2(Angiotensin-converting enzyme2)がウイルスの侵入経路になってしまっていることがわかってきている。ACEという酵素の機能は複雑だが、喫煙からの影響を受けることが示唆されてきた。たばこを吸うとアンギオテンシン系の活性の低下などが引き起こされ、ACE2に変化が起きる。特にたばこに含まれるPM2,5以下の微小粒子・一酸化炭素やシアン化水素・ニコチンが肺の内皮細胞に損傷を起こし、血管を収縮させ、血圧の上昇や下降に関与するアンギオテンシン系が変化するなど、生体がさまざまな反応を示す。そのため、喫煙者や元喫煙者でACE2の発現に変化が起き、新型コロナの感染リスクや重症化リスクが高くなるのではないかと考えられている。
 5月11日、WHOは"Tobacco use and COVID-19"と題する声明を発表。4月29日に招集した公衆衛生専門家らによる研究レビューの結果、喫煙者はCOVID-19にかかると、非喫煙者に比べて重症化しやすいことが明確になったとして、ニコチン置換療法など実績のある禁煙法を使って直ちに喫煙を止めるよう警告した。
 感染拡大に苦しむ米国でも、政府機関のFDAがホームページ上のFAQを更新し、Q&Aの回答の中で"たばこを吸うと病気との闘いを弱める可能性がある。禁煙するのにこれほど良い時はない"としている。
 日本はどうか?政府、厚生労働省からの喫煙リスクに対する公式注意喚起は今のところ聞かない。5月4日に政府の専門家会議が提示した、感染を防ぐための「新しい生活様式」でも、喫煙のリスクや禁煙には一切触れていない。COVID-19の流行は秋以降に第二波がやってくる可能性もある。厚生労働省が、喫煙による重症化リスクを国民に広く注意喚起し、禁煙を推奨、受動喫煙対策を強化することで、救える命は少なくないのではないだろうか。

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