禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

「肺年齢」こぼれ話

日本赤十字広島看護大学 名誉教授
川根 博司

 新年早々のインターネットのニュースによると、お笑いコンビ「博多華丸・大吉」の博多大吉(47)が人間ドックの検査結果から慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断されたことが分かったそうだ。相方の華丸(48)の肺年齢が29歳だったのとは対照的に、大吉の肺年齢は何と69歳だった。実年齢を22歳も上回る結果には、さすがに衝撃を受けた様子だったという。大吉は27年間(本当はもっと長い??)、1日20本のタバコを吸い続けてきたといい、医師から完全禁煙を勧められたが、現在は電子タバコ(加熱式タバコ?)に切り替えており、本数を減らしていく方向でいたいと煮え切らない態度だったようである。これを機に、ぜひ博多大吉さんにはすっぱり禁煙し、落語家の桂歌丸師匠を見習ってCOPDの啓発活動をお願いしたいと思う。
 ここで話題となった肺年齢とは、喫煙者の換気機能の検査結果を表すのに筆者がわが国で初めて導入した概念である(川根博司、小島健次:肺機能からみた"肺年齢"の算出.臨床検査 1998;42:248-249)。1985年、Morrisらは喫煙による肺の障害を表すのに"lung age"(肺年齢)という概念を提唱し、スパイロメトリーと肺年齢が禁煙の動機づけに有用であろうと報告している。筆者らはそのMorrisらの論文に習い、"肺年齢"を算出するのに1秒量を利用することにして、西田ら(広島大学第二内科)の予測式を使い"肺年齢"算出のための回帰式とノモグラムを作成したわけだ。そこで54歳の喫煙男性に肺機能検査を施行してみると、1秒量2.24L、1秒率65%、%1秒量79%、"肺年齢"74歳であった。この被験者に対して、閉塞性換気障害があることをただ説明するよりも、「あなたの肺(肺機能)は74歳の人並みです」と告げるほうが分かりやすいし、よりインパクトを与えることができた。
 その後、機会あるごとに"肺年齢"のことを紹介するとともに、日本人間ドック学会でも「肺年齢」について発表し、人間ドックの検査項目に肺機能検査が入っている所では、この「肺年齢」を算出して禁煙の動機づけに役立てることを提言したが、残念ながらその普及は十分に進まなかった。ところが、日本呼吸器学会が、筆者に一言くらい断りがあってもよさそうなのに何の挨拶もなく(苦笑)、「肺年齢」を商標登録し、2009年9月11日付け(その8年前にアメリカ同時多発テロが発生した日付!?)で商標権を取得したこと(https://www.jrs.or.jp/modules/information/index.php?content_id=368)を知り驚いた。さらに、肺年齢普及推進事務局により肺年齢.net(http://www.hainenrei.net/)なるウェブサイトも立ち上げられていた。そして、そこから啓発事業やイベント情報などが発信され、肺年齢対応スパイロメトリーも市販されるようになって、「肺年齢」の認知度が向上するとともに測定が全国的に広まる機運が高まった。
 一方、肺年齢計算式が組み込まれているスパイロメトリー測定機器では自動的に肺年齢が表示されるために、喫煙者のうち1秒量が正常基準値を超える人は、実年齢より若く肺年齢が出たのを見て自信を持つ場合があり、禁煙指導の妨げになるという負の側面が懸念される。宮本らも日本呼吸器学会雑誌に掲載された「禁煙指導における肺年齢の問題点」の中で、呼吸機能障害も自覚症状もない喫煙者が検診あるいは人間ドックで呼吸機能検査を受け,肺年齢が実年齢よりも若かった場合、肺年齢を知ることが禁煙する動機にはならないであろうと述べている(http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/049050404j.pdf)。このことは筆者が最初から指摘していたことであり、改めて同誌に意見を投稿したが、禁煙指導に利用する場合、肺年齢は軽度の気流閉塞を示す喫煙者に対して適用すべきであろう(http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/049100792j.pdf)。検診・健診などでスパイロメトリーを実施しても、肺年齢という言葉が独り歩きをしないようにうまく活用して、禁煙指導に役立ててほしい。

戻る