禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

受動喫煙防止雑感

医療法人社団 石井外科診療所
院長 石井 哲朗

 先日、日本医師会から「世界医師会(WMA)医の倫理マニュアル 第3版」が送られてきたのでパラパラとページをめくってみると、「医療はサイエンスでありアートである」の一文が目に入った(P.14)。サイエンス(Science)とは観察できること、計算できる事項でありいわゆる「医学」の部分であるが限界がある。医療のアート(Art)としての側面は、同じものが二つとない個々の患者、家族、社会に「医学」を適用する事であり、これらの違いを認めて対応するには倫理、教養、人文科学、社会科学が必要だというのである。また、第3章「医師と社会」では公衆衛生についても述べている。公衆衛生学者はその科学的基礎を疫学に求め、感染症などの危険から公衆を守るだけでなく、健康促進のための公共政策に対する助言や主張を行うが、学者だけでなくすべての医師が個々の患者の健康状態に影響を与える社会的、環境的決定因子を認識しておくことが必要だとしている(P.59)。「医師と医師会は、常に自分の患者の最善の利益のために行動する倫理的責務と専門職としての責任を負うものであり、この責任を公衆衛生の確保・促進という、より広い配慮や主体的な活動と結びつけるようにしなければならない」(WMAの健康増進に関する声明(Statement on Health Promotion)より)

 さて、本日のお題である「受動喫煙(他人のたばこの煙にさらされること)防止」である。今年の8月、国立がん研究センターは受動喫煙による肺がんのリスク評価をこれまでの「ほぼ確実」から「確実」に引き上げた。受動喫煙による日本人の肺がんリスクが約1.3倍となることが確かめられたのである。健康増進法や労働安全衛生法は、多数の者が利用する施設の管理者や事業者は受動喫煙を防止するための措置を講じるよう努めることとしている(努力義務)が、たばこを吸わない人が意に添わぬ形で飲食店や職場で受動喫煙を強制される機会は決して少なくない。そのような状況の中、政府は2020年の東京オリンピックに向けて受動喫煙防止対策の強化を進めている。学校・医療機関などの敷地内禁煙、官公庁などの建物内禁煙、飲食店・サービス業の原則建物内禁煙(喫煙室設置可能)が提案されており、管理者だけでなく利用者の喫煙にも罰則が検討されている。

 サイエンスとしての医学(疫学)では受動喫煙が健康を害することは明白である。医師が患者の健康増進のために受動喫煙を防止しようとすることは当然であり、視点を集団に広げて公衆衛生へ主体的に働きかけることは専門職としての責務である。しかし高いレベルでの受動喫煙防止を社会に適用するにはアートの部分が必要となる。自己決定の原則を守りながら多様性を認め、しかし主張すべきことはしっかり主張し、受動喫煙防止を社会のコンセンサスにしなければならない。これは患者の「最善」の利益のために行動する、医師の倫理的な責務ともいえる。これまで禁煙推進活動に及び腰だった私だが、意識を改めることとしよう。

戻る