禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

禁煙治療にインセンティブ

広島県医師会
常任理事 津谷 隆史

 昨年の British Medical Journal(BMJ)に禁煙治療に金銭的インセンティブを与える方法に関する論文が掲載されました1)
 これは、イギリスの研究チームによる報告ですが、喫煙の習慣がある妊娠24週未満の612人に対し、通常の禁煙治療としてニコチン代替療法を使うグループの306人と、禁煙の達成度に応じて最大400ポンド(7万円ほど)の商品券を約束しつつ同時にニコチン代替療法も行うグループ306人による禁煙成功率を比較した無作為試験でした。
 結果は、通常の治療のグループでは26人が、商品券を約束したグループでは69人が禁煙に成功し、商品券を使うグループの14.0%が、通常の治療のグループよりも多く、出産直前まで禁煙を続けられたとの結果です。金銭的インセンティブによる有害報告はありませんでした。
 禁煙に対して、いかにインセンティブを与えるかは以前から議論されているところです。この商品券の費用負担がどこからまかなわれるかは、大きな問題ですが、人間の心理を巧みについた方法であることには間違いありません。
 先日、「がん検診受診率を上げる!行動変容マーケティングの科学的アプローチによる先進事例」と題した、(株)キャンサースキャン代表の福吉潤先生の講演を拝聴する機会がありました。福吉潤先生は、厚生労働省がん検診受診促進企業連携推進事業アドバイザーとしてマーケティング手法でがんの検診率を上げる仕事をされておられます。この講演で興味深かったのは、がん検診の案内チラシを行政が作るとき、行政負担額を明らかにすることで、検診者数は明らかに増加したという事例でした。すなわちがん検診の行政負担分8,000円あれば、「がん検診2,000円です」としたチラシより「がん検診10,000円で8,000円分の受診券をつける」とした方が有意に検診率は増加したとのことです。この手法もうまくインセンティブを心理的に利用した方法です。本来は禁煙するだけで多くの恩恵を受けるのですが、この恩恵がニコチン依存によって、直接見えなくなるのが、禁煙治療の難しさでしょう。
 最近、広島県協会けんぽでは、事業所検診時、その事業所での喫煙率を算定し、県内約3,200事業所の中で、「御社の喫煙率は何位?」として、ヘルスケア通信簿を作成し、各事業所にフィードバックしています。これにより事業所ぐるみの禁煙運動も広がっていると聞きました。金銭的インセンティブのみではなく、喫煙者が禁煙に向けて一歩踏み出せるような、工夫が必要かもしれません。

1) Financial incentives for smoking cessation in pregnancy: randomised controlled trial. BMJ. 2015 Jan 27

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