禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

コールドターキーで禁煙を

広島県医師会禁煙推進委員会委員長
日本赤十字広島看護大学
教授 川根 博司

 表題は映画『ティファニーで朝食を』をもじってつけたものだが、コールドターキー(cold turkey)は直訳すれば「冷たい七面鳥」ということになる。七面鳥料理はクリスマスに欠かせない(米国では感謝祭の時にも食べる)が、七面鳥のコールドミート(冷肉)や冷凍ターキーなどを連想すると×である。和訳の正解、つまり本当の意味は、「麻薬、酒、タバコなどを突然きっぱりと断つこと」である。
 筆者がコールドターキーという用語を初めて目にしたのは、1990年発行の『JAMA(米国医師会雑誌)』に掲載されていた禁煙方法についての論文であった。その中に、禁煙するためには喫煙本数を徐々に減らしていくよりも、"cold turkey" approach(quit "cold turkey")の方が成功率が高いと述べてあった。わが国でも禁煙指導の際には、タバコを少しずつ減らすやり方(減煙法)よりも、思い切ってすっぱりやめる方法(断煙法)を勧めるのが一般的であるが、これを英語では cold turkey と呼んでいる。それにしても、なぜコールドターキーという言葉が、麻薬や酒、タバコなど依存性物質の突然の使用中止を意味するようになったのであろうか。
 当時、いろいろな辞典・事典に当たってわかったことは、コールドターキーという表現は、麻薬の離脱症状(禁断症状)として特徴的な鳥肌(英語では gooseflesh)が、ちょうど羽をむしり取られた調理前の七面鳥に似ているところから、このような言い方・用い方が広まったそうである。さらに、コールドターキーについて調べる過程で、七面鳥は北アメリカ原産なのに、なぜ英語で turkey(Turkey:トルコ)と言うのか疑問を抱いた。その謎解きはコールドターキーの語源とともに『日本医事新報』第3616号(平成5年8月14日発行)のエッセイ欄に載ったが、七面鳥がヨーロッパに伝わった際にホロホロ鳥と混同されたことが原因のようである。
 その拙文『コールド・ターキー』の終わりに〔追記〕として、「その後ある本を読んでいて、20年あまり前に米国で『コールド・ターキー』という題名の映画が作られていたことを知った。その映画の筋書きは、ある小さな町の住民全員が禁煙を30日間続けた結果、2,500万ドルの賞金を手に入れる、というものである。レンタルビデオでもあれば、ぜひ見てみたいと思っている」と書いた。その後のインターネットの目覚しい普及により、Amazon を通してVHS版『Cold Turkey』(図1)を購入し、やっと鑑賞することができた。1971年に公開されたコメディー映画であるが、日本語字幕はなく、英語が全部理解できるわけではないものの、楽しく笑いながら見終わった。今回この「禁煙コーナー」を執筆するに当たり、改めてネット検索してみると、この映画はわが国では劇場未公開・テレビ放映とのことだが、邦題が『タバコのなくなる日』となっている。ぜひ日本語版を見てみたいが、TV録画ビデオは出回っていないようである。ただ、「Cold Turkey (1971)」で検索すると、映画情報や画像とともに YouTube も出ており、動画を見ることができるので、興味を持たれた方はぜひご覧いただきたい。
 『ティファニーで朝食を』では、主演のオードリー・ヘップバーンが四六時中タバコを吸っていたのが記憶に残っている。特にキセルのような長いシガレットホルダーを使ってタバコをくゆらせていた姿が印象的だった。われわれ団塊の世代も、ヘップバーンが映画で見せた妖精のような美しさに魅了されたものであるが、彼女は63歳の若さで大腸(虫垂)癌により世を去った。亡くなったのは奇しくも筆者が『コールド・ターキー』を著した1993年のことである。禁煙運動をしている人たちの間で、中年以降の彼女は残念ながらスモーカーズフェイス(smokers' face)の女優として知られているが、若い時に「コールドターキーで禁煙を」していれば、違った経過をたどったのではなかろうか。

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図1 米国映画『コールド・ターキー』(1971年)の
ビデオテープのパッケージ

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