禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

原発とタバコ

広島県医師会禁煙推進委員
うらべ医院 卜部 利眞

 震災から10ヵ月、私たちは政府の情報やメディアの震災報道を通じて、震災を受け止め、震災や原発事故について考えさせられてきた。
 昨年の夏、広島大学で、NHKテレビ白熱教室JAPANが開かれ、私も出席した。講師の川本隆史氏は、かつて、広島の原爆について、詩人石原吉郎氏が、「広島について、どのような発言をする意思ももたない」と述べていたことを紹介された。それは、「私が広島の目撃者でないというのが、その理由である」人間は情報によって告発すべきではない、その現場に、はだしで立った者にしか告発は許されないというのである。白熱教室の会場からは、主要なテーマであった政治哲学者ジョン・ロールズの正しい戦争の定義について、原爆記念碑に書かれてある銘文と同じように、主語がないという指摘があった。正義を議論するのに、当事者として、そこにみずから身をおかない者の議論ほど、空虚なものはない。
 震災後、石巻市出身の作家、辺見庸氏は、テレビで次のように語られていた。「私たちが負わなければいけないものは、個人の苦しみである。問われているのは国でもなければ、民族でもない。今、真価が問われているのは明らかに、疑いもなく個人である」と。辺見氏は、東北沿岸の津波のあとのがれきの状況の中で、私たち個人に何が求められているかを問いかけている。「カミュの小説『ペスト』に登場する、伝染病に立ち向かう医師ベルナール・リウーの誠実さこそ、この状況で求められるべきものだ」と、彼の言葉を引用されている。また、「放射能がかなり高いレベルの場所に留まって、患者を診ている医者。あれがベルナール・リウーだよ。あれが誠実さっていうもんだよ」と。
 行政がその責任を十分果たし得なかった状況で、東京税関は「4月は水とたばこの月間輸入量が過去最高になった」と発表した。ミネラルウォーターが前年の2.3倍、紙巻たばこが1.4倍。いずれも、東日本大震災の影響という。福島県のたばこ工場が被災し、かなりの銘柄が製造中止になった。これを機に微量の放射能より危ないたばこはやめよう...とはいかず、4月は110億本も輸入されたそうだ(6月5日、読売新聞、編集手帳より)。
 福島第一原発事故では、政府は当初は炉心融解を隠し、さらに国の放射線対策は遅れ、迷走を重ねていたように見える。人が健康を維持するうえで、被曝線量をどこまで抑えるべきなのか、皆が知りたいところだ。食品を通じた低線量の被曝の危険性や、土壌汚染に関しては、あまり知られていなかったようだ。低線量の被曝による健康被害への影響は、専門家でも意見が分かれている。京都大学原子炉実験所の小出裕章先生は"安全な被曝量"は存在しないと訴えられ続けていた。

 この放射線の影響以上に、喫煙や受動喫煙は健康を害するさまざまな疾病を来たし、いかに恐ろしいものであるかということは明らかである。この喫煙の害を、多くの人に知らせ、深く理解させることは、医師としての誠実さであると考えている。

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