禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

フーテンの寅さんとたばこ

広島市立安佐市民病院
名誉院長 岩森 茂

 啖呵売(啖呵が売りもの)家業の「テキ屋」車寅次郎ことフーテンの寅さんが主人公である「男はつらいよ」という映画は、実に27年間48話も続いた映画シリーズである。本人の芸名は渥美清(本名 田所康雄)、昭和3年東京生まれである。転移性肺がんのために、1996年(平成8年)8月4日順天堂医院にて享年68歳の生涯を閉じている。私がここで強調したいのは、寅さんシリーズのいずれも歯切れのよいやくざ的な啖呵と演技も多く、旅先で美女に惚れ、そして結局は片思いに終わってやけ酒を飲むのが当たり役であったが、彼女にフラれても、いつもフェミニスト的なやさしさを示していたところは、まったく嫌味を感じなかったことである(もちろん、山田洋次監督の考えもあろうが?)。
 さて、本筋に戻ろう。彼は1954年(昭和29年)26歳の時に肺結核を患い、片肺をとるという大手術をして、3年間の療養生活を送った。特筆すべきは、この時以来彼は、たばこ、酒、コーヒーは手をつけていないことである。渥美 清という名前は、渥美半島のきれいな風景が好きであったこと、そしてたばこを吸わない清らかな人間というイメージを守りたいという思いも強かったのであろう。ともあれ映画の役どころとしては、たばこを吸うのは当たり前と思いがちであるが、片思いに終わり、やけ酒を飲むシーンは見事なものであったが、重ねて言いたいのは映画の中でもまったく Smoke Free であったのである。
 寅さんはその名演技により、最近有名になったなでしこジャパンの女子サッカーチームと同様に、国民栄誉賞を授けられている。ちなみに俳優としてこの栄誉を贈られたのは、長谷川一夫についで2人目であった。山田監督によれば渥美清の記憶力は偉大なものがあり、天才ともいうべきものと絶賛しており、これも禁煙などの節制の賜であったろう。また、死亡時には一部の新聞に肺がんにより死亡と書かれたこともあり、私もこれを信じた一人であるが、彼が禁煙者であったことから、私も執念をもって病因を探索したところ、真実は肝臓がんの肺転移であることが判った。
 「男はつらいよ」のシリーズの終わりのころは体調も芳しくなかったようであるが、約5年間山田監督も十分気を使いながら、メガホンをもっていたようだ。いずれにしろ、渥美清は映画ファンにとっては忘れがたい名優であり、その声も最後までさわやかであったことは、多少とも禁煙の所為と信じたい。
 終わりに、彼の死は彼の意志からただちには通知されず、3日後に初めて公表されたことを付記しておこう。

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