禁煙コーナー

禁煙に関するコラム

在北米被爆者健診と福島原発事故

広島県医師会禁煙推進委員会
松村 誠

 去る2011年6月15日より6月29日まで、1977年より隔年で実施されている第18回在北米被爆者健診のため、ロサンゼルスとホノルルを訪問した。全米には、カリフォルニア州を中心に、被爆者は今なお約1,100人が在住しており、今回の健診では、219人の被爆者を健診した。特に、近郊に原発が2基あるロサンゼルスでは、福島原発事故の放射性物質は、偏西風に乗って4日後には北米の西海岸に達しているとの情報もあり、福島原発事故への関心が高かった。広島県医師会と姉妹縁組のロサンゼルス郡医師会とロサンゼルス総領事館での表敬訪問に際して、多くの米国人医師や総領事などから、福島原発事故の状況と放射性物質による健康影響、そして、広島・長崎の被爆と福島原発事故の被曝との違いについての質問が相次いだ。
 そこで、われわれ健診団は、団長の私と放射線影響研究所長崎研究所の陶山昭彦副団長とで対応した。福島原発事故による放射能障害は、現在のところ、東京電力原発作業員などの現場従事者を除く一般の被災者の健康への影響は限定的なものであり、今後の長期的健康調査を待たねば結論は出せない状況であると説明した。しかし、福島原発事故から3ヵ月以上経っているが、いまだ収束の目途が立っておらず、放射性物質による土壌や海水、そして食品などの環境汚染も深刻であり、さらに、当初検出の放射性ヨウ素より半減期が長い放射性セシウムの検出が目立ってきており、より広範囲の厳重な放射能検査が必要であるとも述べた。
 そして、放射性物質による健康被害については、タバコを引き合いに出しコメントした。福島原発事故による低い放射線量を浴びた場合の発がんのリスクは、タバコ同様、年齢が重要であり、10歳では成人に比べ2~3倍と考えられている。タバコでは、肺がんのリスクは約4倍である。次に、浴びた放射線量であるが、これも吸った本数が多いほどリスクが高くなるタバコ同様に、浴びた線量が高いほど発がんリスクは比例して高くなる。また、いくらまでなら浴びても安全という線量はなく、タバコと同様、少ないほどよいし、浴びない・吸わないに越したことはない。さらに、放射線を浴びて、がんになる確率は、主に広島と長崎の被爆者の膨大なデータから得られたもので、千ミリシーベルト浴びると、5.5%上がると言われている。福島の20キロメートル圏外で放射性物質の累積が多いとされている計画的避難区域は、年間の放射線量を積算すると、20ミリシーベルトに達する可能性がある地域であり、50年間住み続けると、被曝線量が千ミリシーベルトとなり、がんのリスクが年あたり0.11%の増加となると考えられる。これを、タバコと比較すると、喫煙者のがんのリスクは、非喫煙者より1.6倍も高く、放射線に換算すると、年間32ミリシーベルトとなる。したがって、もし計画的避難区域に住んだとしても、タバコよりはるかに発がんリスクは低いのである。斯様に、タバコは危険なのである。
また、放射性物質による被曝の一つの目安とされている100ミリシーベルトを浴びた場合の、がんが原因で死亡するリスクは、最大で0.5%上昇すると考えられており、これは受動喫煙と同程度である。いかに、受動喫煙の発がんリスクが高いかである。そして、喫煙であるが、2千ミリシーベルト以上の被曝に相当すると言われており、タバコの発がんリスクは、福島原発事故による被曝とは、くらべ物にならないほど高い。福島原発事故による被曝は、内部被曝であり、一瞬に莫大な放射能線量を浴びせられた広島・長崎の原爆被爆の外部被曝とは本質的に異なる。同様に、タバコもいわば内部被曝に相当するのである。

 ところで、東広島市の新市庁舎に、喫煙室がワンフロアおきに設置される計画が進められているとのことである。福島原発事故の計画的避難区域の放射線量より危険であるタバコ対策なくして、東広島市民の健康を守ることはできないと言っても過言ではない。ぜひとも、タバコの害から、そして受動喫煙の被害から、市民と職員を守るため、新市庁舎の敷地内禁煙を実現したいものである。

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